(写真上)初代 長次郎 黒樂茶碗 銘 大黒(おおぐろ)【安土桃山時代・16世紀】個人蔵(A)

COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, TOKYO


(写真下)青磁輪花茶碗 銘 馬蝗絆(ばこうはん)【中国・龍泉窯 南宋時代・12〜13世紀】
東京国立博物館蔵(B)

COURTESY OF TOKYO NATIONAL MUSEUM

 「お茶」に憧れを感じつつも、敷居の高さや面倒臭い約束事の気配を察知して、遠ざかってきた人は少なくないだろう。稽古事としてのお茶にどこまで深入りするかはともかく、茶の湯の世界の広さと深さをまずはのぞいてみたい、という人にとって、この春は千載一遇のチャンス。東京国立博物館ではなんと37年ぶりとなる特別展『茶の湯』が、また東京国立近代美術館では、千利休の創意を受けて作り出された樂茶碗をテーマに『茶碗の中の宇宙樂家一子相伝の芸術』が、同時期に開催されるのだから。

 


油滴天目(ゆてきてんもく)【中国・建窯南宋時代・12〜13世紀】

大阪市立東洋陶磁美術館蔵、国宝

足利将軍家の唐物コレクションをまとめた『君台観左右帳記』に、

曜変天目に次ぐ第二の重宝と記載のある南宋時代の茶碗。

茶碗の内外に金・銀・紺の斑文がびっしりと浮かぶ(B)



初代 長次郎 赤樂茶碗 銘 無一物(むいちもつ)【安土桃山時代・16世紀】

頴川美術館蔵、重文

誇張や変化、装飾性を極限まで抑え、そぎ落とした、

「大黒」とともに利休の思想がもっとも濃厚に反映された茶碗。

茶室の土壁、人間の皮膚に溶け込む赤みを帯びた色を呈する

(A・B ※展示期間あり)



 茶の湯は不思議な芸術だ。美術史家の島尾新は『「和漢のさかいをまぎらかす」茶の湯の理念と日本文化』(淡交新書)の中で、貴族たちの和歌、続く禅僧たちが漢詩文、というように、それまで文芸にあった教養の核心が、茶の湯の登場によって「陶磁・絵画・書から建築・庭園にまで及ぶ「道具をはじめとする造形芸術における総合的な趣味」へ、つまり「文学から美術への、文字からモノへのシフト」が起こった、と喝破する。なるほど、『茶碗の中の宇宙』展の展示物の中心は茶碗だし、『茶の湯』展はもう少し幅広く掛物や花入なども出展されるにせよ、確かに道具は茶の湯を構成する重要な要素だ。