ソール・ライターのアトリエにて


 「日本に来たのは、実はこれが初めてなんだ。けれども、とても居心地が良くて、まるで生まれ育った場所にいるようだよ」と穏やかに話すのは、フランス・アルルとニューヨークを拠点に活動する写真家のフランソワ・アラール。1961年にフランスで生まれ、サイ・トォンブリーやルイジ・ギッリ、ルイーズ・ブルジョワ、リチャード・アヴェドンらのアトリエの撮影のほか、インテリア誌やファッション誌でのエディトリアルを数多く手がけ、その卓越した建築写真は世界的に知られている。



フランソワ・アラール 



 アラールは両親がインテリアデザイナーだったため、幼少期からインテリアや建築に興味を持っていたという。「インテリアは常に身近にあったもの。だから、自然とインテリアと関係のある仕事をしたいとは思っていたんだ。たまたま、若い時に写真家のアシスタントとして仕事をする機会があって、経験を積んだ後に写真家としてのキャリアをスタートした。最初は『Marie Clare Maison』や『Décoration Internationale』といったインテリア雑誌で撮影をしていたよ。それから、1980年代半ばに『CondéNast』社のディレクターだったアレックス・リバーマンに誘われて、アメリカへ引っ越したんだ。アメリカ版の『GQ』『VOGUE』『Vanity Fair』でおもに仕事をしていたね」と、アラールは当時を思い出しながら話す。インテリアの写真を専門にしていたが、ファッションフォトグラファーとしても10年ほど活動し、その後、再びインテリア業界へ戻ってきたという。


 既述したように多くの著名なアーティストたちのアトリエ撮影を手がけてきたアラールだが、なぜ彼らの住む場所やアトリエを写真に収めたいと思ったのか? 「雑誌で撮影するインテリアは、パーソナルな部分にはフォーカスしないでしょう? 僕はもう少し、人の面影が浮かび上がるような写真を撮りたいと思ったんだ。インテリアは、アーティストのインスピレーション源を表現する場所でもあるからね。それを写真で残すというのは、とても意味のあることだと思った」


「でもトォンブリーなんて、撮影するまでに15年くらい待ったよ(笑)。アトリエはとてもプライベートなものだし、誰だって公開したくないよね。だから、撮らせてもらうまでは辛抱したよ」と笑って話すアラール。撮影するまでの時間は彼にとってつまらないものではなく、むしろ心躍るような瞬間がたくさんあるのだという。「子どもがおもちゃ屋さんに行って、欲しいものがなかなか手に入らない。けれどある日、欲しかったものを買ってもらえる! …そんな感情と似ているかな」