世界最高峰の美術館のひとつ、パリ・ルーヴル美術館。その至宝のコレクションから“肖像芸術”のみをピックアップした企画展「ルーヴル美術館展 肖像芸術 ――人は人をどう表現してきたか」が東京新国立美術館で始まった。毎日、SNS上に大量のセルフィーがアップされる昨今の状況を見るまでもなく、肖像は最も身近な表現であり、その歴史も古い。本展は、そうした肖像の表現的特質、また肖像芸術がになってきた社会的役割を解き明かす。


 さて、展覧会の目玉はなにか? ポスターやパンフレット、図録の表紙などのメインビジュアルにあるように、ヴェネチアの巨匠ヴェロネーゼによる《美しきナーニ》はそのひとつだ。ルーヴルの代名詞《モナ・リザ》と並んでルネッサンスの肖像画の最高傑作と称される作品で、ベルベッドのドレスや、ゴールドやパールのアクセサリーを身にまとった女性には荘厳なムードが漂う。肖像画には珍しく、どこから眺めても被写体とは目が合わないというミステリアスさもある。なにより、日本でこの作品が展示されるのは27年ぶりだ。



ヴェロネーゼ(本名パオロ・カリアーリ)

《女性の肖像》、通称《美しきナーニ》1560年頃

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) /

MICHEL URTADO / DISTRIBUTED BY AMF-DNPARTCOM



 しかし、《美しきナーニ》にひけをとらず目をひく作品はほかにもある。たとえばフランスの英雄ナポレオン1世に関しては、将軍時代のポートレイトから戴冠式の姿を表現した彫刻、デスマスクまで複数作を展示する。彼の肖像は、実物よりもだいぶ“盛られている”ことで知られている。その背後には、“権力者はかくあるべき”という徹底したイメージ戦略があり、本展のタイトル「人は人をどう表現してきたか」の答えのひとつを的確に言い当てている。


 あるいは、古代エジプトの棺桶に飾られた女性の絵が本展のイチ押しだという人もいるかもしれない。2世紀後半に描かれたものとされているが、現代ほど画材の質がよくなかった時代に、どうしてここまでリアルな人の顔を描くことができたのか、そもそも描く必要があったのか?――といった本質的な問いに観る者を導く。



アントワーヌ=ジャン・グロ 《アルコレ橋のボナパルト(1796年11月17日)》 1796年

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) / 

MICHEL URTADO / DISTRIBUTED BY AMF-DNPARTCOM



クロード・ラメ 《戴冠式の正装のナポレオン1世》 1813年

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) /

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(写真左から)

《棺に由来するマスク》

新王国時代、第18王朝、アメンへテプ3世の治世(前1391-前1353年)、

エジプト出土

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) / 

FRANCK RAUX / DISTRIBUTED BY AMF-DNPARTCOM


《女性の肖像》

2世紀後半、エジプト、テーベ(?)出土

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) /

 GEORGES PONCET / DISTRIBUTED BY AMF-DNPARTCOM



 会場の最後に飾られている《春》と《秋》は、ちょっと変わった肖像画として来場者の記憶に強く残るだろう。神聖ローマ帝王フェルディナント1世の宮廷画家として名声を獲得したアルチンボルドが残したこの「四季」シリーズは、植物を組み合わせた単なるユーモラスな人物画ではなく、特別なメッセージを含んだ政治的作品だ。その真横からのポートレイトは、古代ローマのコインなどに見られる典型的な権力者、偉人たちのポーズと同じ。また、植物で顔を描くというアイデアは、被写体の神聖ローマ帝王が森羅万象をも支配する存在であるという含意をもつ。アルチンボルドはこの「四季」シリーズを何度もコピーして描き、時の皇帝マクシミリアン2世はその絵を他国の主に贈り、外交手段として用いたという。現在にはない肖像作品のあり方だ。



ジュゼッペ・アルチンボルド 《春》1573年

PHOTOGRAPH:© RMN-GRAND PALAIS (MUSÈE DU LOUVRE) /

JEAN-GILLES BERIZZI / DISTRIBUTED BY AMF-DNPARTCOM



 ハイライトは目白押しだ。それこそが、世界中の人がルーヴルに熱狂し、何度も足を運ぶ理由でもあるだろう。ちなみに、フランス政府の明確な文化政策のもと、ルーヴル美術館は1848年より以前に作られた作品を収蔵、展示、研究してきた。そこには中世の芸術作品はもちろん、西洋美術の成立に影響を与えたイスラム美術や古代文明も含まれる。結果、5000年もの年月を網羅するそのコレクションは、地域的、宗教的に多様なバッググラウンドをもち、超時代的なものとなった。ルーヴルの本質ともいえる、そうした収蔵作品の多層的な表情を垣間見れるのも本展のおもしろさだ。




「ルーヴル美術館展 肖像芸術 ―― 人は人をどう表現してきたか」

会期:〜9月30日(日)

会場:国立新美術館 企画展示室1E

住所:東京都港区六本木7-22-2

開館時間:10:00〜18:00

(金・土曜は、6月は20:00、7〜9月は21:00まで)

※入場は閉館時間の30分前まで

休館日:火曜 ただし8月14日は開館

入場料:一般 ¥1,600、大学生 ¥1,200、高校生 ¥800、中学生以下無料

TEL. 03(5777)8600(ハローダイヤル)

公式サイト






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