歴史ある能楽の「シテ方」五流派のひとつ金剛流。その宗家が、代々受け継いできた能面や能衣装を集めた展覧会が開催中だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

 奈良の法隆寺に奉仕した大和猿楽の一座「坂戸座」を源流とし、能楽の主役を務める「シテ方」五流派のひとつ、金剛流。多くの優れた能面・能装束をコレクションしていることでも知られ、“面金剛”とも呼ばれてきた。その宗家に代々伝わる能面や能装束の名品、腰帯や扇などの小道具が勢揃いする特別展が、東京・日本橋にある三井記念美術館で開かれている。

 金剛流宗家と三井記念美術館のあいだには特別なゆかりがある。昭和11年、かつての宗家だった坂戸金剛家は、跡継ぎの不在により絶家。その後、弟子関係にある野村金剛家が家元になることで再び継承された。その際、坂戸金剛家に伝わる能面は三井家に譲渡されたのだが、現在それらを所蔵しているのが、ここ三井記念美術館なのである。今回の展覧会には、三井記念美術館に移された能面に、現在の宗主、金剛永謹(ひさのり)が新たに蒐集したものが加えられている。

画像: 《雪の小面》 龍右衛門作 室町時代 21.4×13.6cm 金剛家蔵

《雪の小面》
龍右衛門作 室町時代 21.4×13.6cm 金剛家蔵

画像: 重要文化財《小面(花の小面)》 伝龍右衛門作 室町時代 20.8×13.2cm 三井記念美術館蔵

重要文化財《小面(花の小面)》
伝龍右衛門作 室町時代 20.8×13.2cm 三井記念美術館蔵

 目玉は、豊臣秀吉が愛蔵した「雪の小面(こおもて)」と「花の小面」だ。秀吉は、晩年、自分の半生をテーマにした新作能を作らせたほど、能に没頭。能面のコレクションにも励み、特に、室町時代の面打ちの名人、龍右衛門が作った「雪」「月」「花」の3つの小面を愛でたという。そのうち「月の小面」は江戸城の火災で焼失したと言われており、現存するのは「雪」と「花」の2つのみ。前者は、野村家を通じて金剛家に渡り、後者は、ほぼ同時期に金剛家から三井記念美術館に移された。金剛永謹は「『雪』と『花』が一緒に並ぶのは、第二次世界大戦後に1回、東京で展覧会を開いて以来。半世紀ぶりにやっと実現しました」と話す。

画像: 金剛家の能楽師が初めて舞台に上がる際に代々着けてきた「翁」を含む58の能面が一堂に。能装束や腰帯や扇などの小道具も見応えがある (写真左より) 《翁》日光作 室町時代 17.6×14.0cm 金剛家蔵 《般若》赤鶴作 室町時代 21.0×15.8cm 金剛家蔵

金剛家の能楽師が初めて舞台に上がる際に代々着けてきた「翁」を含む58の能面が一堂に。能装束や腰帯や扇などの小道具も見応えがある
(写真左より)
《翁》日光作 室町時代 17.6×14.0cm 金剛家蔵
《般若》赤鶴作 室町時代 21.0×15.8cm 金剛家蔵

画像: **《牡丹唐獅子文厚板》 **金剛能楽堂財団蔵 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF MITSUI MEMORIAL MUSEUM

**《牡丹唐獅子文厚板》
**金剛能楽堂財団蔵
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF MITSUI MEMORIAL MUSEUM

 この展覧会の企画から展示品の選定、また図録の監修まで、すべて金剛永謹が担当しているのも興味深い。実際に能面を被り舞台に立つ能楽師が、それらをどうキュレーションするのか?

 能は、能面を身につけて行う仮面劇である。しかし、その仮面は、生身の人間が鬼や神の化身に変身するための単なる演劇道具ではない。能芸師たちは、熟練することを「面が身につく」と表現する。能芸師は能面の奥に、自分が理想とする能楽のかたちを見てきたのだろう。「能面は師匠のような存在であり、良い能面ほど、やすやすと役者を寄せつけてはくれない」とは、金剛永謹の言葉だ。

 なによりも、ほかの美術品と違って能面は“現役”である。その多くが室町時代や江戸時代に作られたものであるが、舞台の上で使われながら代々受け継がれてきた。ちなみに、来年2019年6月には「雪の小面」を使った「薄(すすき)」が上演される予定だ。金剛流のみに伝わる演目であり、過去に上演記録のない幻の復曲能である。能面は能楽師を導き、そして誘う。金剛流の宗主が選んだこれらの能面たちは、確かにそんな不思議な力をも、見る者に感じさせる。

金剛宗家の能面と能装束
会期:〜2018年9月2日(日)
会場:三井記念美術館
住所:東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は30分前まで
休館日:月曜
入館料:一般 ¥1,300、大学・高校生 ¥800、中学生以下無料
電話:03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

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