スノーデン事件が象徴するように、我々は監視社会を生きている。その実態を鋭く、大胆に描き出すのがアーティスト、トレヴァー・パグレンだ

BY MEGAN O’GRADY, PORTRAIT BY JANINA WICK, TRANSLATED BY MIHO NAGANO

画像: 彼が作った人工衛星「軌道上の反射体」の3D模型とともに、ベルリンで撮影されたパグレンのポートレート

彼が作った人工衛星「軌道上の反射体」の3D模型とともに、ベルリンで撮影されたパグレンのポートレート

「私たち、今、ひょっとして監視されてる?」。ベルリン中心部にある彼のスタジオで、私はトレヴァー・パグレンに尋ねてみた。第二次世界大戦前に建てられたこのアパートが、ベルリン市内でかつて最も監視されていた場所であったことは間違いない。このアパートは以前、パグレンの友人ローラ・ポイトラスが所有していたからだ。彼女はエドワード・スノーデンのドキュメンタリー映画を撮った監督で、スノーデンを世界中に知らしめる役割を果たした。「われわれは常に見られているさ」とパグレンは答える。部屋の中はコンピューターだらけだ。壁に向いたアシスタントがプログラミングのコードを書くかたわらで、もうひとりが人工知能を訓練するためのデータを研究している。反対側の壁には画集が詰まった長いサイドボードがあり、その上にはちょっと不吉な感じのするオブジェのコレクションが並んでいる。ゲームの「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に出てくるような竜に盾とサーベルがついたトロフィや、レーダーに探知されにくいステルス性の米国海軍ジミー・カーター潜水艦のおもちゃの模型、軍の「極秘任務」を表す布製のパッチがあり、中にはパグレンお手製のものもあった。そのひとつは、人類が絶滅したのちに遺棄された人工衛星を見上げて、あれは何だろうといぶかしがっている未来の恐竜たちの模型だ。

 このアーティスト兼作家がいま拠点を置いているのが旧東ドイツの街であるというのは、なかなかの皮肉だ。ここはかつて、市民たちがお互いを秘密警察シュタージに密告し合わねばならなかった場所だ。シュタージは、1989年にベルリンの壁が崩壊した際に、膨大な資料を残したまま姿を消した。その15年後、シカゴ美術館附属美術大学の大学院でファインアートの修士号をすでに所得していたパグレンは、地理学の博士号を取るべくカリフォルニア州立大学バークレー校で学んでいた。そこであるとき、モハベ砂漠の地図から機密上の理由で軍事施設の表記があらかじめ消されているのを知った彼は、天文写真家が使う特殊レンズとカメラをかついで、極秘軍事施設の写真を撮り始めた。それ以来、彼は人類がいかに地球の表面を変えてきたか、また、その変化によって、逆にいかに人間が変容させられてきたかを記録してきた(彼がこれまでのキャリアを通じて調査した記録は、来夏、スミソニアン博物館で展示される予定だ)。

そうして彼が撮った写真は、見る者の目を幻惑し、奇妙な気分にさせ、われわれ自身とわれわれが認識している世界が乖離することで増大しつつある不安に光をあてる。小さなカモメかと見まがうようなドローンが極彩色の夕日を背景に飛ぶ写真や、イギリスののどかな田園風景の中にひっそりと造られた監視基地の中に見える、管理社会を象徴する白いレイドーム(訳注:レーダーを外から見えないように格納するドーム)の写真。一見平和な海中の風景を撮った写真もあるが、その海底にはコミュニケーションのカギを握る大動脈であるケーブルが埋め込まれている。「人は、私の作品は目に見えないものを白日の下に晒(さら)すためのものだと言いたがるけれど、それは誤解だ」とパグレンは言う。「これらは、目に見えないものが実際にはどう見えているかを提示しているんだよ」

T JAPAN LINE@友だち募集中!
おすすめ情報をお届け

友だち追加
 

LATEST

This article is a sponsored article by
''.