人間のようにふるまう、ウィットに富んだ犬たちのポートレイトで知られる写真家ウィリアム・ウェグマン。未発表だったポラロイド作品について自ら語ってくれた

BY ALAINNA LEXIE BEDDIE, PHOTOGRAPHS BY WILLIAM WEGMAN, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI(RENDEZVOUS)

 私の友人は、写真家のウィリアム・ウェグマンの家の近所に住んでいる。彼女がそのことを知ったのは犬の散歩中、ひとりの男性が2匹のワイマラナー、“フロ”と“トッパー”に話しかけているのを見かけたからだ。彼女だけでなく、犬と芸術を愛する誇り高きニューヨーカーであれば誰でも、その男性がウィリアム・ウェグマンだとすぐに気づくだろう。ウェグマンが飼う犬たちは、かなり有名なのだ。犬種はつねにワイマラナーで、ひどく特徴的な名前がつけられている。それは、ウェグマンがワイマラナーを撮影しはじめた70年代から変わらない。

 最初に彼が被写体にした愛犬の名は、マン・レイ(ダダイズムの有名な写真家の名前)だった。マン・レイがガンで亡くなる1982年まで、ウェグマンはこの愛犬とともに写真やビデオ作品を作り上げてきた。その82年に、アメリカの週刊紙『ヴィレッジ・ヴォイス』は、“今年の顔”にマン・レイを選んでいる。犬のマン・レイが、人間のようにマスコミに取り上げられるのも驚くべきことではない。ウェグマンの作品として写しとられたマン・レイは、グラスに入ったミルクを飲んだり、学校の成績表を受けとったりと、まさに人間がふだんやっている姿そのままだからだ。

 これまでウェグマンは何匹ものワイマラナーを飼ってきた。その愛犬たちは、数え切れないほどの写真集や展覧会の作品制作のため、手の込んだ衣装も気長に身に着けてくれた。実際には、ウェグマンは長年にわたって発表してきた作品よりも、ずっと多くの写真を撮影している。「撮影したまま見返すことなくしまっておいた何箱もの写真を、最近チェックしてみたんだ。それはまるで宝物を掘り出しているかのような気分だったし、その中から本当におもしろいシチュエーションの作品も見つけることができた」とウェグマン。「今までやったことがないと思っていたことをじつはすでにやっていたり、以前見捨てた方向性の作品が案外おもしろく思えたりね。しかし、当時やっていたことを忘れてしまっているとは――なんて貧弱な記憶力なんだ!」

 10月に発売される彼の新しい写真集『William Wegman: Being Human』に掲載された作品の多くは、こうして再発掘されたものだ。また、9月5日からニューヨークのスペロン・ウエストウォーター・ギャラリーで開催されている展覧会『Dressed and Undressed』でも、多くの未発表のポラロイド写真を見ることができる。

 展覧会に先駆けて、ウェグマンは未公開の作品をT magazineで発表。それぞれの作品の制作時の思い出についても語ってくれた。

画像1: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Uphill』1990年
「これは愛犬バティが自転車に乗っているところ。どうやってこれを撮ったかわかる? よく見みると、自転車のスタンドが降りていて、それを平らな石で支えている。だからすごく安全なんだ。私が飼っている犬のほとんどは、このポーズができる。だって、ただシンプルに座ってるだけだからね」

画像2: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Wolf』1994年
「これは、バティの母親のフェイだね。犬をほかの動物に変身させようと、いろんなキャラクターを表現できるハロウィングッズを買い集めてた時期があったんだ。これはとてもうまくいった作品。とりわけ犬にとってスタンダードな“お座り”のポーズをしているところがすごく気に入っている」

画像1: PHOTOGRAPHS: © 2017 WILLIAM WEGMAN

PHOTOGRAPHS: © 2017 WILLIAM WEGMAN

『Whisper』1998年
一時期、犬たちをいろんなキャラクターにドレスアップして撮影していたことがあった。私が使っていたポラロイドカメラは縦位置でしか撮影できないという制限もあったから。24×20インチの縦位置で、とても大きく、一眼レフのカメラのように手で持って撮影することができなくてね。だから、被写体をカメラの位置まで近づけるしかない。もちろん、スツールや台座に犬を座らせたりしてカメラの位置に合わせるんだけれど。そうこうしているうちに、犬たちに衣装を着せはじめたんだ

画像3: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『What to Do』1995年
「とてもおもしろい一枚だと思わないかい? この時は、犬のフェイ・レイをデスクに座らせて、小さなメモ帳を置いたりして細かいディテールを加えてみたんだ。とりわけこの写真のフェイは、よく撮れていると思う。フェイは誰か人を見ている。だから、タイトルは『What to Do(今日の仕事は何だっけ?)』ではなく『How can I help you? (ご用は何ですか?)』の方がいいかもね」

画像4: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Lighting Director』2002年
「われわれはこの撮影のためにニューヨークのシューベルト劇場に行ったんだ。そこでトニー賞のポスターを撮る予定だったんだけれど、『なんだって!トニー賞のポスターに犬を使うことはできない』となって、結局ムダに終わってしまった。だから、私にこの案件を依頼してきた人はちょっと困っていたけどね」

画像5: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Léger』1998年
「これは、色に関しては画家のフェルナン・レジェの作品に少し似ている。だからタイトルにレジェとつけたんだ。これを撮影したのは1998年。なぜか犬たちを擬人化する手法に嫌悪感を抱いていた時期で、モダンアートのような写真を撮ろうと決めたんだよ。この作品を作り出すために、犬の後ろで何人かの人に色のパネルを持ってもらった。当時は、Photoshopなんてなかったからね」

画像6: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Garden』2002年
「妻が手入れをしている庭からいくつか植物を持ってきて、その後ろから少しライトを当てている。日の出のように見えるようにね。このカメラは、近くに撮影の対象物を置くと被写界深度(ピントの合う範囲)がとても浅くなるから、それでいろいろ遊んでみようと思ったんだ」

画像7: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『Seated Figure』1996年
「“犬たちがかわいそう! 彼はどうしてこんなことをさせるの?”と言う人もいるけど、実際には、犬はただ座っているだけなんだ。むしろ人間の方が、膝の上に犬を乗せて、自分は手と脚以外が見えないようにかがみながら座っていなければいけない。それでも、彼女の頭が少し右側に突き出ているのがなんとなく見えてしまってるけどね」

画像8: 奇想天外! ワンダフルな
ウィリアム・ウェグマンの世界

『On the Way』1995年
「この写真、可愛くないかい? ふたりはフェイと彼女の娘のバティ、実の母と娘なんだよ。この写真は、フェイが死ぬ前の年に撮ったものなんだ。そういう意味では、これは感傷的で芝居がかっていると思われるかもしれないけど、まるで母親であるフェイが娘のバティに人生のアドバイスか何かを教えているようにも見える。とても母親らしい姿だと思うんだ」

画像2: PHOTOGRAPHS: © 2017 WILLIAM WEGMAN

PHOTOGRAPHS: © 2017 WILLIAM WEGMAN

『Hansel and Gretel』2007年
「これは、キャンディと彼女の娘だね。ふたりとも女の子。だけど、キャンディはちょっとボーイッシュだから、私はキャンディを“ヘンゼル”に、彼女の娘のペニーを“グレーテル”に見たてて演じさせたんだ。この時のセットはメトロポリタン・オペラ歌劇団から借りたものだよ。私は当時、歌劇団の演目のためのシリーズ写真を撮っていた。これは、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』のために描かれた背景画。もっと言えば、衣装も本当のオペラで使われたもの。歌劇団がみんな貸し出してくれたんだ」

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