COURTESY OF MAISON KITSUNÉ


 先日、メゾン キツネとコレボレートしたフレグランス「ノート デ ユズ」をローンチした、ニッチラグジュアリーパフューマリーの「ヒーリー」。その創始者であり、調香師であるジェームス・ヒーリーに、今回の香りについて直接、話を聞く機会を得た。


「メゾン キツネの理也とは、10年来の友人です。彼は日本人、僕はイギリス人で、おたがいパリでは異邦人。ちょっとした疎外感を感じていた頃に出会ったんです。同い年で、イギリスの音楽が好きな理也とはすぐに意気投合して、『一緒に香りを創りたいね』とは話してたんだけど、なかなか実現しなくてね。


理也のお気に入りはヒーリーのセル・マランという香り。2008年に作ったこの香りは、まさに海の香りがコンセプト。オイスターレストランで嗅ぐような、ちょっとソルティな感じの香りです。お互いに忙しくてのびのびになっていたメゾン キツネの香水を作るにあたって、理也は"セル ・マランみたいな香り"を、と希望してくれたのだけど、同じことをやるのは僕の主義じゃないから、何か新しい、日本らしいものを作れないかと思ったんだ」


(写真左から)

MAISON KITSUNÉのジルダ・ロアエックと黒木理也、ジェームズ・ヒーリー

PHOTOGRAPH BY ALCIBIADE COHEN



 新しい素材を探したジェームスがスポットを当てたのは、日本の果実、ユズだった。日本ではフレグランスを使う人がまだまだ少なく、重く深みのある香りはあまり受け入れられないという話を聞いていたこともあり、香りが苦手な日本人も臆することなく、使いたいと思ってもらえるようなフレグランスを目指しての選択だった。


「以前、冬至の日に京都でヒノキの浴槽のユズ風呂に入ったことがあります。ユズはとても日本的な果物だし、ユズのようなシトラスの香りはヨーロッパの人にもオーデコロンとしてなじみがあるのでちょうどいいと思ったんです。ユズのはつらつとしたエネルギーを感じる美しい香りは、若々しくて、カラフル。フレッシュでユニセックスというメゾン キツネのイメージにもぴったりだと思って。


だけど、単純なシトラスノートでは退屈だし、古臭くはしたくない……。そこでセル・マランのような潮やミネラルを感じるソルティなノートをプラスしようと。ユズの香料は今のところないので、マンダリン、レモン、グレープフルーツを組み合わせて、ユズの香りを創りました。アコードを作るのは本当に緻密な作業で、画家が思い描く理想の色を作るのに似ているかもしれないですね。理想的なユズの香りが自分の記憶の中にあって、マンダリンやレモン、グレープフルーツの配合量を調整しながら、ああでもない、こうでもないと調香を続けていると、あるとき、ふっと“これだ!”という瞬間がやってくるのです」


 ジェームスの語る通り、レモンのような爽快な刺激とマンダリンの温もり、グレープフルーツの苦みが混然一体となり、日本を代表する柑橘類の香り、ユズそのものといったみずみずしさに包まれる。そしてそれが肌に触れると、波に洗われたときのようなソルティな潮の香りが訪れる。

「香水は音楽のように構成が大切です。できるだけシンプルな方がいい。だけど、退屈にしてはいけない。いい香りだけではいい香りは作れない。何かアクセントとなる香りを与えて、モダンに仕上げるのです」



ジェームス・ヒーリーがメゾン キツネのために創った初めての香り

「ヒーリー オードパルファン ノート デ ユズ」。

みずみずしい柑橘のトップノートから、海の潮、

やがてベチバーやホワイトムスクの官能へ至るユニセックスなパルファン

COURTESY OF MAISON KITSUNÉ



 ひと昔前は、調香師というと香りの都といわれる香水の産業都市、フランスはグラース出身者がほとんどだった。が、今、世界の香水界の流れは「ニッチラグジュアリー」と呼ばれるアトリエ系、メゾンフレグランスの時代と言われている。「ヒーリー」もまたそんなブランドの代表であり、ジェームスも非グラース出身者だ。彼は若き日、法律家になることを嘱望されて勉強していたが、厳しい現実を突きつけられる弁護士という職業は自分にはとても担えないと、進路を哲学と美学へ変更。その後、グラフィックのデザイナーとして働くうちに香りに魅せられ、調香師の道を歩むことになった。


「パリのフローリスト、クリスチャン・トルチュで働いていた時は、いつも花の香りに包まれた夢のような生活でした。生まれ育ったヨークシャーの家には庭があって、刈り取られた芝生の匂いがしていた。大学時代につきあっていた彼女はオランダ系で、彼女の家に遊びに行ったときの、シナモンの効いたポプリも思い出深い香りです。僕の創作はとても静かな、プライベートな世界。魂の深いところに降りていくように、自分の記憶の中の香りを探しにでかけます。ある種のファンタジーですね」



ジェームス・ヒーリー

イギリス ヨークシャー生まれ。ロンドン大学キングスカレッジで

哲学と美学を学び、パリでグラフィックデザイナーとして働いている時に

香りの世界に魅せられる。グラースのパフューマリーで学び、

2006年に自身のブランド、「ヒーリー」をパリで設立。現在はベルギー在住。

COURTESY OF JAMES HEELEY



 ジェームスの創る香りを嗅ぐと、調香とはまさにセンスが問われる仕事にほかならないと実感する。同じ香料を使っていても、組み合わせは無限にある。調香師はひとつの香りを構成する数種類の香りを嗅ぎ分け、正確に記憶し、それをまた新たな香りに置き換える職業だ。単純に自然界のいい香りを再現するのではない。膨大な数の香料の中から、記憶を手繰り寄せ、思い描く香りの構成を考える。自然の香り以上に、情景が思い浮かびあがるようにデザインされた香りこそ、フレグランスと呼ぶにふさわしいもの。類まれなセンスを持つ、この若き英国人が描いたカラフルでエネルギッシュなユズの香りにぜひ、触れてみてほしい。



ヒーリー オードパルファン

ノート デ ユズ

<50mL>¥14,000 <100mL>¥18,000

MAISON KITSUNÉ直営店、およびHEELEY正規販売代理店にて発売中

問い合わせ先

メゾン キツネ カスタマーセンター

フリーダイヤル: 0120-667-588

ヒーリー公式サイト






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