NYから電車で1時間、さらに車で30分。ニュージャージーの静かな村チェスターに、アーティスト蔡國強の別荘がある。もとは広大な馬牧場だった場所に、蔡がアート作品を制作するアトリエやアーカイブ倉庫、家族と過ごす住まいを設計したのは、世界で最も有名な建築家とも呼ばれるフランク・ゲーリーだ。芸術的な価値観ではほとんど一致するところのないこの2人が、いかにして友情を育み、この家をつくりあげたのか――? 別荘の内部を公開した貴重な写真と2人のインタビュー、その後編。


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 9700平方フィート(約901平方メートル)の母屋はガラスとセコイア材でできた構造の集合体で、上には、端が上にカールしたように見えるチタニウム製の屋根が乗っている。ゲーリーが空飛ぶ絨毯に見立ててデザインしたのだ。建物の正面は、コーナーから突き出たようないくつもの小さなバルコニーで飾られ、それがもともとの石造りの本体に複雑な幾何学的形状を加えている。ゲーリーは電話で私にこう言った。「芸術家は、視覚を通して思考するという冒険を恐れないが、ほとんどの人間はそんなふうには考えないものだ」。


ゲーリーは今、テクノロジー系の起業家のために別の家を設計中だが、その女性は建設業者のようにものを考えるのだという。「われわれは芸術を提供し、彼女はそれを組み立てるべく発注するんだ」と彼は言う。「つまり、取り組み方が全然違う。そこがいいんだよ。顧客によって視点が違うというところがね。建築家として、その顧客のものの見方を把握できれば最高だ。建物がよりその人らしいものになるから。空飛ぶ絨毯は、蔡そのものさ。彼にぴったりだと思う」(空飛ぶ絨毯みたいな屋根は彼がゲーリーにリクエストしたのかと私が聞くと、蔡は爆笑した。「もし私が『ねえフランク、空飛ぶ絨毯を創ってくれるかな?』なんて言ったら、彼は『自分でデザインしろ』って言うよ」。蔡が希望した家の仕様を尋ねると、ゲーリーは言った。「そうだな、彼は寝室をこういうふうにしたいとは言ってたよ」)



客用の棟にある寝室



 家に通じる小道は2本あり、それぞれ別の入り口に通じている。表玄関は家族用で、もうひとつは客用玄関だ。それぞれの入り口の前には、石づくりの魔除けの獅子が配置されている。この獅子の彫刻は2000年のホイットニー・バイエニアル展覧会で蔡が作品プロジェクトに使ったもので、彼が育った毛沢東時代の中国では禁止されていた風水をモチーフにしたものだ。ホイットニー美術館の展示のために、蔡は風水の面で問題を抱えているというニューヨーカーの自宅を訪ねて回った。


そして彼も問題ありと同意した場合は「あらゆる災いを防ぐように」と、獅子の石像を彼らに販売した。「何でも買えるほど裕福なお金持ちが何人かいたんだけど、彼らの自宅は風水の観点から見て特に問題がなかった。だから獅子像がいくつか余ってしまったんだ」。蔡自身の風水上の問題は、表玄関に面して立っている1本のやせ細った木だ。その木が家の敷地全体に不吉な感じを漂わせているというのだ。獅子像はその木をにらみつけるように置かれており、蔡は「ちょっと問題だな」と心配そうに言った。



家族の寝室へと続く階段



 蔡とゲーリーは、たがいのスタイルがかみ合わない以上に、性格もまったく違う二人組だ。蔡は温和で、家族を大事にすることを誇りに思う男だ。彼は図書室になる予定の場所の壁に立てかけてある、末娘が描いた絵を自慢そうに見せる(娘が描いた風景画の横に置いてある作品を指し「あ、それからあれは、ウィレム・デ・クーニングの作品だよ」と言うのだ。訳註:デ・クーニングは抽象画の巨匠)。話しているときの彼は、自分のジョークに笑い転げたかと思えば、ときどきふっと黙りこくって、家の周りの自然に見とれている。この家を見つけたとき、建物はどんな状態だったのかと聞くと、彼は草の上で休んでいる野鳥をしばらく無言でじっと見つめてから言った。「敵に羽根を食いちぎられてしまって、飛べないんだ」。まるで鳥が彼にそう説明したかのように。



蔡の娘が描いた絵画。
隣にあるのは、ウィレム・デ・クーニングの作品



キッチンに置かれた陶磁器のマグカップ



 どちらの男も強烈なエネルギーに満ちているが、より激しいのはゲーリーだ。彼は口数が少なく、話していてもいきなり黙り込む。電話取材のしょっぱなから、「なぜインタビューをする必要があるのか?」と根源的な質問を投げてきた。そして、蔡のあの髪型は何とかするべきだと言う。私もゲーリーも笑ったが、彼は冗談で言ったのではなかったようだ。しかし、彼は驚くほど父性的でやさしい一面も見せた。彼の弟子だったデイヴィスの話になると、「このコラボレーションは素晴らしい。彼女が成長して、自分の専門分野で特別な存在になったのを見るのは、じつに感慨深いよ」と言うのだ。また、最初に蔡の家のことを話題にしたとき、ゲーリーは真剣な声で「彼、家を気に入ってたかな?」と聞いた。