夫婦ふたりで改造した
居心地のいい
ロンドンのタウンハウス

A Cozy London Townhouse, Both Spare and Filled To The Brim
ロンドン北西部にあるヴィクトリア朝の古びたタウンハウスが、大がかりなリノベーションで華麗に生まれ変わった

BY SOPHIE ELMHIRST, PHOTOGRAPHS BY CARLOTTA CARDANA, TRANSLATED BY AKANE MOCHIZUKI (RENDEZVOUS)

画像: 静物フォトグラファーのマシュー・ドナルドソンと新聞や雑誌の編集者であるクラウディア・ドナルドソンはロンドンの自宅でわれわれを暖かく迎えてくれた

静物フォトグラファーのマシュー・ドナルドソンと新聞や雑誌の編集者であるクラウディア・ドナルドソンはロンドンの自宅でわれわれを暖かく迎えてくれた

「初めてここを見たときは、本当にひどい状態だったの」。ロンドンの北西にある、ヴィクトリア調の広大なタウンハウスに住むクラウディア・ドナルドソンはこう語る。「とにかく、話にならないくらい古びていたんだ」と、クラウディアの夫で写真家のマシュー・ドナルドソンも同意する。5年前にこのタウンハウスを購入したふたりは、珍妙な天井やしろうとくさい電気配線といったあれやこれやを改造して、古ぼけた内装を優美なオアシスに変身させたのだ。

画像: ヴィクトリア調のタウンハウスをリノベートするため、マシューは不要な壁を取り壊し、残った壁をすべて白色に塗り、床をコンクリート敷きにした。それは実質的に、大きな白い箱を創り出すことになった

ヴィクトリア調のタウンハウスをリノベートするため、マシューは不要な壁を取り壊し、残った壁をすべて白色に塗り、床をコンクリート敷きにした。それは実質的に、大きな白い箱を創り出すことになった

 夫のマシューは、ロエベやスマイソンといったラグジュアリーブランドやファッション雑誌のために、正統派で緻密な静物写真を撮影している。自分の仕事では、シンプルな線とまとまった色彩を好んで用いる。たとえば、むき出しの階段の上にハンドバッグをひとつ置き、照明を効果的に当てるといった具合だ(「初めて会ったころの彼は、すごく堅苦しい人だったの」とクラウディアは言う。「ジャン・プルーヴェの椅子が置かれた白い箱のような家にいられれば、それで幸せっていうタイプね」)。彼はモノでいっぱいになることが大嫌いで、部屋が散らかることを恐れてさえいる。

画像: 落ち着いた雰囲気のイギリス式のキッチンは屋外スペースへと続いている。ここはドナルドソン夫妻がゲストをもてなす場所だ

落ち着いた雰囲気のイギリス式のキッチンは屋外スペースへと続いている。ここはドナルドソン夫妻がゲストをもてなす場所だ

 3階建てのこの家は、いったんすべての装飾を取り払って丸裸にしなければならなかった。マシューは空間を広げるためにいくつかの壁をとり壊し、残りの壁を白く塗り、床一面にコンクリートを敷いた。そうした大がかりな解体作業によって、一から大きな白い箱を創りあげたのだ。そしてクラウディアが、その中にインテリアやモノを詰め込んでいった。

「2人で一緒に、自分たちの住む家を形にしていったというわけ」とクラウディアは言う。彼女は新聞と雑誌の編集者で、つい先ごろはLVMHの傘下にあるビデオサイトNowness.comのディレクションを担当した。「彼は全体のプランと構造といった基礎的な部分を担当した。そこに私が加わり、大量のクッションを持ち込んでこの家を完成させたのよ」

画像: クラウディアは美術品やアンティークといった意味のある品々のコラージュで部屋を埋め尽くしている

クラウディアは美術品やアンティークといった意味のある品々のコラージュで部屋を埋め尽くしている

 クラウディアがこの家に持ち込んだのは、もちろんクッションだけではない。ギリシャのキクラデス諸島で休暇を過ごしたときに見つけた、木製のフルーツボール。食料保管庫用のペンダント・ライトは、イタリアのムラーノにあるテーブルクロス・メーカーの工房にぶら下がっていたのを、マシューを説得してわざわざ飛行機で運んでもらったものだ。

「いつも私はマシューを怒らせてしまうの」とクラウディア。「旅行をするたびに、自分たちの家用にあつらえるものを見つけてしまうから」。特注品だけでなく、直接買い付けるものや、交渉して入手するものもある。彼らの家にある品々には、なにかしら物語がある。たとえばリビングルームにある大理石の暖炉は、近所のノッティング・ヒルのアンティーク・ショップで見つけたもので、そこにはスズランの彫刻が施されている。スズランの花は、クラウディアや彼女の母の家系であるフランスの女性たちが結婚式の時に持つブーケに使われる花だ。

画像: 旅に出るたびに、クラウディアはマシューにねだって家のための品物を買ったり注文したりするという

旅に出るたびに、クラウディアはマシューにねだって家のための品物を買ったり注文したりするという

 リノベーションをした際に彼らが手を加えなかったのは、鉤爪の脚がついた独立式のバスタブだけだ。それは今、ベットルームの隣にある化粧室に置かれている。「このバスタブ、小さいでしょ。私たちは身長が180cm以上あるから、ちょっと実用的なサイズじゃないんだけど」とクラウディアは言う。

だが、そのバスタブから大きな出窓の向こうを眺めると、ウェルスデンの木々のてっぺんを見渡すことができる(19世紀に緑豊かな住宅街になる以前は、このあたりは果樹園であったらしい。このエリアの庭の多くには、いまも果物のなる木々が植えられている。ドナルドソン家の自慢は、イチジクの木とイチゴの茂み、いろんな種類のそろったハーブ畑だ)。

画像: ナイジェル・シャフランが撮った大きな鳥の巣の写真が夫婦のベッドの上に飾られている。この写真の反対側には、マシューが自分のスタジオを持つケンティッシュ・タウンのホームレスが描いたミニチュアの水彩画が飾られている。「彼は気に入った人にしか作品を売ってくれないんだ」とマシュー

ナイジェル・シャフランが撮った大きな鳥の巣の写真が夫婦のベッドの上に飾られている。この写真の反対側には、マシューが自分のスタジオを持つケンティッシュ・タウンのホームレスが描いたミニチュアの水彩画が飾られている。「彼は気に入った人にしか作品を売ってくれないんだ」とマシュー

 キッチンとダイニング・エリアには、1階にある2組の大きなガラス扉から差し込む光があふれている。この場所で、夫婦と彼らの子供である9歳のアティカス、5歳のヴィタは多くの時間を過ごしている(マシューには、この2人のほかにも以前の結婚でもうけた子供が2人いる。スタイリストのオウレリア・ドナルドソンと、モデルのリリー・ドナルドソンだ)。

広々とした家族用のスペースには、ロンドンで活躍する照明デザイナーのマイケル・アナスタシアデスやアンティーク・ディーラーのスティーヴン・スプレークから購入した照明やアンティーク、さまざまなスタイルのアーティストの作品がコラージュのように並べられている。マシューの父親で、ポップ・アーティストであるアンソニー・ドナルドソンのヌード絵画のシリーズもここに飾られている。

画像: リノベーションする以前からこの家にあったのはこの鉤爪脚がついたバスタブだけだ

リノベーションする以前からこの家にあったのはこの鉤爪脚がついたバスタブだけだ

クラウディアがいろんなモノを収集し続けるにしたがって、この空間も進化を続けることだろう。クラウディアは言う。
「これはニュース記事を作ったり静物の写真を撮ったりといった仕事とは別もの。家を創るというのは、決して終わりのない作業なの。永遠にね」

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