先日、プロダクトデザイナー深澤直人は、英国の出版社ファイドンから10年ぶりとなる作品集『Naoto Fukasawa: EMBODIMENT』をリリースした。その表紙を飾ったのは、日本の木工家具メーカー、マルニ木工のアームチェア“HIROSHIMA”だ。この10年で深澤が発表したプロダクトや展覧会などのプロジェクトの数は100を超えるという。その中で、なぜこのシンプルな木の椅子を選んだのか。深澤は、ほほえみながらこう答えた。「理由は簡単。この椅子を作ったとき、僕にとって“名作”ができたと思えたからです」



マルニ木工の90周年記念イベントに登場した深澤直人

2010年にアートディレクターに就任した



 今年、創業90周年を迎えたマルニ木工と深澤の出会いは2005年にさかのぼる。当時のマルニ木工の主力商品は、いわゆる猫脚のクラシック家具。しかし、バブル崩壊のあおりや消費者のライフスタイルの変化から売り上げは激減し、変革を迫られていた。そこで現在、代表取締役を務める山中 武がデザイナーや建築家とのコラボレーション企画を発案。深澤も参加したそのプロジェクトを経て、山中社長は “世界の定番”を一緒に作るべく、深澤に開発パートナーを依頼したのだという。


 そして2008年、アームチェア“HIROSHIMA”を第一号とした、深澤直人による「マルニコレクション」がスタートした。このコレクションをひっさげて、2009年からマルニ木工は国際的な家具の見本市「ミラノサローネ」に参加。2016年には、厳しい事前審査があり、世界のトップブランドのみが集まる16号館への出展が認められた。その間に、マルニ木工の業績も回復を果たすことができた。



90周年記念モデルとして、全世界90脚限定でリリースされる

HIROSHIMA (アームチェア・張座)¥ 113,000

PHOTOGRAPHS BY YONEO KAWABE



 深澤は、「この話がくる前から“覚悟”をしていた」と言う。「というのも、これまでにも柳宗理さんやル・コルビュジェなど、世界的な建築家やデザイナーはいずれも木工会社とコラボレートして、デザイン史における名作を残してきたからです。逆に言えば、名作を生み出すためには、技術力のあるメーカーとタッグを組むことはとても重要なのです。もしも優秀な木工メーカーと組むことができたら、自分は一生をかけて名作に挑むことになるだろうと思っていました」