4月のミラノ・デザインウィーク会期中に開催された『WASTE NO MORE』展。布と衣類の未来を提示する、その見どころと意義を現地からレポート

BY KAORU URATA

 毎日着用している衣服が、社会や環境、革新し続けるテクノロジーとどのような関係にあるか、ふだん、あまり真剣に考えることはないかもしれない。四季折々にファッションとして楽しみ、気に入らなくなったらリサイクされるか捨てられ、住空間の道具よりも早い循環サイクルで流れ、消えていく。そんな衣服やテキスタイルに新たなビジネスモデルを根づかせ、明日のライフスタイルを見出そうとする人々がいる。

 4月17日〜22日まで開催されたミラノデザインウィーク会期中、ミラノ中央駅の高架下を会場にした Ventura Centraleのイベントで開催された 『WASTE NO MORE』展に興味をひかれた。

画像: WASTE NO MORE展「Ventura Centrale」の会場風景 © PHOTO BY RUY TEIXEIRA

WASTE NO MORE展「Ventura Centrale」の会場風景
© PHOTO BY RUY TEIXEIRA

 Ventura Projectsという組織が母体となり、クリエイティブで実験的なプロジェクトを手がけるデザイナーやブランド企業に着眼して総合的なキュレーションを行う、その一つのイベントがVentura Centraleだ 。そもそもはVenturaエリアではじまったことに由来する総称で、 今日では、中央駅Centrale 会場のほか、同時期に複数のエリアでテーマごとのイベントが開催される。さらに、ニューヨーク、ロンドン、ベルリン、ドバイなどで開催されるデザインウィークにも積極的にイベント出展をしている。

 アーチ型の天井が象徴的なこの空間は、ふだんは閉鎖されているためか湿り気を帯び、アンダーグラウンドな雰囲気が漂う。展覧会のため開放された扉から、そこに 春のさわやかな風が吹き込む。真っ先に目に飛び込んでくるのは、 物流に使われるパレットと、色とりどりのテキスタイルを詰め込んだゲージを積み重ねた、鳥居のような立体。その中央と周辺にも、カラフルなテキスタイルを用いた作品がいくつも展示されている。

画像: (写真右作品)カロライナ・ベドヤのデザインによる「Red Squares」 (2017) © PHOTO BY RUY TEIXEIRA

(写真右作品)カロライナ・ベドヤのデザインによる「Red Squares」 (2017)
© PHOTO BY RUY TEIXEIRA

 展示会のキュレーターは、世界屈指のトレンド予測者でStudio Edelkoort とTrend Unionの創業者リドヴィッチ・エデルコートと同社ディレクターのフィリップ・フィマノである。作品の企画者アイリン・フィッシャーは、着心地や動きやすさはもちろん、エレガントさをとり入れた独自のファッションブランドをアメリカから世界に展開する。しかし、自身が経営するビジネスには矛盾が伴っていることにも気づいていた。生産を続ければ、一方でおのずと廃棄物も増え続ける。その解決方法として、2009年よりフィッシャーは「テイクバック」プログラムを実施している。

 すなわち、自社が生産した一枚の衣服はどんな状態であろうと回収し、状態に応じて再販、あるいは繕いや染め直しなど処置を施して、新しい一着として生き返らせるという取り組みだ。しかし、もう一歩先のステージに挑むフィッシャーは、長年のコラボレーターでアーティストのシギ・アルとともに、2015年から、種類の異なる衣服をとり混ぜて、新たなテキスタイルを生み出す手法を模索しはじめた。回収、洗濯、仕分けといった一連のプロセスのシステム化を定着させるまでには相当の時間を要したことだろうが、近年、ようやく創作・制作が本格的にスタートした。

画像: シギ・アルのデザインによる「Neptune」 (2016) Neptune(2016) design by Sigi Ahl

シギ・アルのデザインによる「Neptune」 (2016)
Neptune(2016) design by Sigi Ahl

 今回、展示会場で壁面を飾ったカラフルなテキスタイルは、どれもが独自で唯一のアートであり、デザインされた作品だ。そのひとつひとつが、フィッシャーが取り組むプロジェクトの総称DESIGN WORKそのものでもある。ジーンズなどのデニムの切れ端をつなぎ合わせたものや、厚手のフェルト地や多種の布地をレイアーにして組み合わせて作られたジャケットやクッションカバー。アーティストのマーク・ロスコが描く光を連想させるグラフィックな構図が目を引く。産業廃棄物としてゴミになるはずだった衣類や布が、独自のプロセスを経て商品やアートとしての道を歩み始める――。古着に新たな美しさや可能性を与える行為に、来場者は魅了されたと当時に、「衣服を消費する」ことについて改めて考えさせられたことだろう。

画像: シギ・アルの作品「Digital Rothko 」(2017) Digital Rothko (2017) design by Sigi Ahl

シギ・アルの作品「Digital Rothko 」(2017)
Digital Rothko (2017) design by Sigi Ahl

 つねに最も身近な距離でわれわれに触れている衣服や、それを構成するテキスタイルには、環境や社会に与えるインパクトという課題が残されている一方で、 まだ多くの未知なる可能性と将来性があることを教えてくれた。と同時に、新しいプロセスを躍進させてプロジェクトを継続させるには、総合的なビジョンの上に築かれたデザイン力が不可欠であることを痛感させられた。

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