人生をシアターと見なして最終章を演じ切ったデヴィッド・ボウイ。 PHOTOGRAPH BY MASAYOSHI SUKITA



 ロンドンのニュー・ボンド・ストリートに面するサザビーズ。世界で最も長い歴史を誇るこのオークションハウスの前を通りすぎたことは何度もあるが、そこに足を踏み入れるのは初めてだった。きっかけを与えてくれたのはウィンドウに掲げられたポスターに写る人物――ほかでもなく、今年1月10日に急逝したデヴィッド・ボウイである。11月に開催される彼のアート・コレクションのオークション『Bowie/Collector』を前に、プレビューが行われていたのだ。
 美術学校で学んだボウイは画家として個展を開いたこともあり、1990年代には権威ある美術雑誌『モダン・ペインターズ』の編集委員を務め、多数の評論を寄稿。アートに造詣が深いことは有名だった。だが彼が熱心なコレクターだったこと、そしてコレクションの規模や内容を知っていたのは、ごく一部の美術関係者だけ。「プライベートな趣味だったのであえて吹聴しなかったようですが、専属のキュレーターを抱え、彼自身もオークションに足を運んでいました」と、展示を案内してくれたサザビーズの英国現代美術のスペシャリスト、ブリン・セイルズは話す。しかしボウイの遺族は ここにきて、保管が困難なために、特に思い入れのある作品を残してあとは手放すことに決めたのだという。その数400点弱、約17億円に相当する。「彼はいっさい枠を設けず、知名度や価値に関係なく自分の直感を基準にして、パーソナルな接点を見いだせる作品のみを購入していました。それゆえに、著名なアーティストも誰も知らないアーティストも混在する、多様なコレクションが形成されたんです」。
オークション『Bowie/Collector』 のプレビューが開催されていたロンドンのサザビーズ。このあとロサンゼルス、ニューヨーク、香港に巡回した。 COURTESY OF MAKI NAKAMURA
 なるほど、そこにはアウトサイダー・アート― 精神疾患を抱える人など正式な美術教育を受けていない作家の作品― やアフリカの現代アート、1980年代に一世を風靡したメンフィス・グループのプロダクトなど、さまざまなジャンルの作品がある。最も高い値がつくと目されているのは、ジャン=ミシェル・バスキアの「エア・パワー」。ボウイが映画『バスキア』('96)で、 アンディ・ウォーホルの役を演じてから間もなく入手したものだ。なかでも半数を占めるのは、モダン・ブリティッシュ・アート― 抽象画家デイヴィッド・ボ ンバーグをはじめ、第二次大戦後の英国人アーティストによる絵画と彫刻である。1947年生まれのボウイが共感を抱いただろうことは想像に難くない。
「当時の英国のアートは、ヨーロッパやアメリカの抽象主義・表現主義を独自に解釈していました。海外のムーブメントを英国人の感性で消化するという点にも、ボウイはコネクションを感じたんじゃないでしょうか。また、戦時中の体験や戦後の混沌とした社会へのリア クションを映すこれらの作品は、当時は重要な役割を果たしたものの、その後はいまひとつ正当な評価を受けていなかった。彼のコレクションには、そんな非主流のアーティストが目立つんです」