ピーターパンと、ウェンディのモデルになった少年たちの母シルビア(左)

PHOTOGRAPH BY JEREMY DANIEL

 アカデミー賞常連のハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインは、その剛腕ぶりと物議を醸す言動で何かとお騒がせな人だけれど、多くのアート系映画(『セックスと嘘とビデオテープ』『パルプ・フィクション』『英国王のスピーチ』etc.)にメジャー的成功をもたらすビジネスセンスと、作品およびクリエイターの才能を見抜く審美眼については誰もが一目置いている。


その彼が、ついにブロードウェイに乗り込んだことでも話題になったのが、『ファインディング・ネバーランド』(’15年)。『ピーターパン』の作者J.M.バリ(ジョニー・デップ)と、彼があの永遠のファンタジーを書く契機となった母(ケイト・ウィンスレット)とその4人の息子たちとの出会いを描いた史実に基づく同名映画(邦題は『ネバーランド』マーク・フォースター監督。日本公開'05年)のミュージカル化だ。自身のプロデュース作品であるこの映画の舞台化はワインスタインの宿願だったそうで、カギを握る演出家にダイアン・パウルスを指名したところに、ワインスタインの人を見る目の確かさが表れている。



バリが出会った4人兄弟の少年たちのうち、

心を閉ざし気味だった三男のピーターがピーターパンのモデル



 パウルスは、ショービズ界で飛ぶ鳥を落とす勢いの気鋭の演出家で、現在も5つのプロジェクトが同時進行中という人気ぶりだが、浮ついたことはいっさいしない人。作品は、まず自らが芸術監督をつとめるハーヴァード大学内のアメリカン・レパートリー・シアター(A.R.T.)で、ていねいに創作する。ワインスタインから、テイク・ザットのゲイリー・バーロウが作ったいくつかの楽曲とともに「この映画をミュージカルにしてほしい」と依頼された際にも、決して安易に映画をなぞろうとはしなかった。



 2月にラスベガスで取材した際、パウルスはこう言った。
「映画を見て、これは舞台になると確信しました。まあ劇作家と戯曲や劇場を巡る話なので当然ではあるんですけど(笑)、同時に、映画とは違うものにしなければいけない、とも強く思いました。この作品は事実に基づいた話ではあるけれど、ドキュメンタリーではありませんからね。結果として、映画の舞台化というより、『(ファインディング・)ネバーランド』のバリエーションのひとつが、新たにできたと思っています」



ケンジントン公園で出会ったバリとシルビアとその4人の子どもたち



 バリが公園で出会ったピーターという名の少年たちとの交流から『ピーターパン』の物語が醸成されてゆく大筋はそのままに、ディナーの席でバリと子どもたちがふざけているうちにティンカーベルのアイデアが生まれたり、執筆をせき立てる厳しいプロデューサーの表情と彼が手にした杖の曲がり具合から、フック船長の造型が出来上がったり、少年たちの母シルビアとバリとの恋愛模様が明確に描かれたり……。パウルスは、映画をヒントにしながら想像の翼をのびのびと広げ、まったく新しい視点から『ピーターパン』誕生秘話を創造してみせた。



バリ(左)の脳の中では、バリに厳しい

プロデューサーがフック船長になって登場


「大事なのは、“ピーター”という少年が、どうやって"パン"になっていったのかを描くこと。それを『ピーターパン』が生まれた劇場という空間(注:『ピーターパン』は1904年にまず演劇としてロンドンで初演された後、バリ自身により小説化された)を使って表現することで、まるで演劇へのラブレターのような作品になったんです」(パウルス)


 吊り上げるワイヤーが見えても「人が飛んでいる」と思え、キラキラ光るライトに、自然とティンカーベルの姿を重ねることができる。そんな観客の想像力を信頼してパウルスと俳優たちが真摯に紡ぎだす世界に、観客の私たちの方こそ、信じることの尊さを教えてもらえた気がして、「舞台を観る」という行為に愛おしささえ感じてしまうのだ。


 まさかワインスタインにこんな清らかな気持ちを引き起こされるとは。映画版より、さらに心洗われること必至のヴァリエイションー舞台版ーが誕生した。



ピーターパンの作者バリ(中央)とモデルになった少年たち、

そして初日を迎えた『ピーターパン』出演俳優たち




ブロードウェイミュージカル『ファインディング・ネバーランド』

会場:東急シアターオーブ(渋谷ヒカリエ 11F)

期日:9月8日(金)~24日(日)[全24公演]

料金:S席¥13,000、A席¥11,000、B席¥9,000、

   プレミアム席¥15,000(1F席1~13列目、2F前方席) 、

   U-25チケット¥6,500

問い合わせ先:

キョードー東京 TEL. 0570(550)799 

ホリプロチケットセンター TEL. 03(3490)4949

公式サイト







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