来日してすぐにクライミングに行ったというネスボ氏(56)。デニムをさらりと着こなしていた ARISA KASAI

 筋肉質で190cmを越える長身、短く刈り込んだ金髪にライトブルーの瞳。アルコール依存と乱れた生活で顔色はつねに悪く、芝刈り機のようにしわがれた声でぶつぶつと話す――これが、ノルウェーで生まれ、いまや世界50カ国で累計3300万部の売り上げを誇る作家ジョー・ネスボによる大ヒットミステリー・シリーズの主人公、ハリー・ホーレ警部だ。

 

 シリーズ5作目の『悪魔の星』が日本で刊行されるにあたり、ジョー・ネスボ氏にインタビューすることができた。この2ヶ月はタイに滞在し、仲間とロック・クライミングに興じつつ“修行僧のように規則的”な執筆の日々を送っていたという。澄んだ青い目と引き締まった体躯。肌は健康的に焼け、語り口はあくまでソフトでなめらかだが、その風貌に接した人の多くは思わずハリー・ホーレを彷彿とさせられるのではないだろうか。ネスボ氏自身、「たしかに、僕らの70%ぐらいは共通している。いい面もわるい面も含めてね」と言う。

 

「1作目を書いたときには、僕とハリーはかなりかけ離れていたと思う。でも、何作か書き進めていくうちに、彼が何をし、どう反応するかがわかるようになり、価値観や政治的な立場や、ポップカルチャーに関する趣味といった基本的なパーソナリティが抗いがたく近づいていった。結果、僕自身が物語にするっと入り込んでしまったんだ」

言葉を選びながら、しかし饒舌に語る。おだやかな言葉の端々に、「書くこと」への自負がにじむ ARISA KASAI

 私生活では完全な“ダメ男”だが、人並みはずれた観察眼と直観力をもち、警察のルールを片っ端から破りながらも事件を解決に導く敏腕刑事。世界中のミステリ・ファンを魅了してやまないハリー警部の、誕生秘話がまたおもしろい。

 

 少年時代にサッカーに熱中し、プロ入りも嘱望されたネスボ氏は、ひざの故障でその夢を断たれ、証券会社の仲買人になった。仕事のかたわら始めたバンドが大ブレイクして一躍、ノルウェーのスターとなった彼は、昼は会社員、夜はライブという二重生活を送っていたが、やがて「何もかもがいやになり」、6ヶ月の休暇をとってオーストラリアへと出奔。オスロからシドニーに向かう30時間のフライトのあいだにプロットを練り、ホテルに着くなり書き始めたのが、ハリーの登場する第1作『ザ・バット/神話の殺人』だ。37歳で書いたこの処女作は、北欧5カ国から選ばれる「ガラスの鍵」賞をはじめ数々の賞を受賞し、瞬く間にベストセラーに。ネスボ氏自身もハリーも、いきなりミステリ界の寵児となった。