PHOTOGRAPH BY KOKI KOMIYA


 古典芸能である歌舞伎が『ワンピース』や『あらしのよるに』を上演したことに、驚いた人は多いことだろう。でも、じつは江戸時代の昔から、歌舞伎は世の中が注目する他のメディアや未知のめずらしい書物など、「おもしろい芝居にできる」と踏んだものは何でも貪欲に取り入れてきたエンターテインメント。歌舞伎界の若きエース尾上菊之助さんも、2005年にシェイクスピア作品を蜷川幸雄演出により歌舞伎化した『NINAGAWA 十二夜』を企画・主演し、大成功させている。


  あれから12年。満を持して挑む新作歌舞伎は、紀元前に成立したとされるインドの古代叙事詩『マハーバーラタ』。ヒンドゥーの神々の姿を借りて、世界の構造や人間の本質を説く長大な神話を、歌舞伎で初めて取り上げる。インドの人たちにとっては、現在もとても身近な存在であると聞き、菊之助さんはこの夏、初めてインドを訪れた。


カルナが生後間もなく流されるガンジス河のほとりにある

ヒンドゥー教の聖地、ハリドワールにて。

ガンジス河で神々に捧げる祈りを習う菊之助さん



「楽しかったですねぇ。街並みを歩いているだけで、非常にパワーのある国だと感じました。ガンジス川では、太陽を拝みながら沐浴する方たちを目の当たりにしましたし、ヒンドゥー教の寺院では、シバ神の像に牛乳をお供えして熱心にお祈りしている方たちを見かけました。本当に神と人間が近いということを、肌身で感じることができました」


 対立する二つの王家による争いと、それを天上から見守り、時には姿を変えて人間と関わる神たちの物語。菊之助さんが扮するのは、敗者となる方の王家に貢献するヒーローで、太陽神と人間の女性クンティ(本作では汲手姫)の間に生まれ、生後すぐに母に棄てられて育った悲劇の武将、カルナ(迦楼奈)。不遇な英雄を好んで描く、歌舞伎らしいセレクトだ。