1964年、当時の20世紀バレエ団(現モーリス・ベジャール・バレエ団)によって初演された、モーリス・ベジャール振付「第九交響曲」。作品誕生50周年、そして東京バレエ団創立50周年というアニバーサリーが重なった2014年、東京の地で、この傑作が15年ぶりに再演された。壮大な規模ゆえに、上演が難しいと言われる“第九”。それが、モーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団の共演、しかもオーケストラはズービン・メータ指揮のイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団という夢のようなコラボレーションで実現したのだ。





 ベートーヴェンの交響曲“第九”のテーマは「博愛」だ。第3楽章の合唱に使われるシラーの詩「歓喜の歌」は、“人類はみな兄弟になれる”と高らかに歌う。ダンスは人種や言葉を超えて愛を伝えるもの――。この作品では、ベジャールのそんな信念が詩と音楽に共鳴し、生命力に満ちあふれたダンサーたちの肉体を通して、まぶしいほどエネルギッシュに表現されている。


 スイスと日本のダンスカンパニーと、イスラエルのオーケストラがともに挑んだこの“第九”公演は、まさに人種と文化の多様性を体現し、宗教や肌の色が違う人々が手をたずさえて一つの芸術作品を作り上げた、伝説の一夜となった。そして3年がたった今年、そのステージの裏側を追った一本のドキュメンタリー映画が完成した。スペイン人の女性監督アランチャ・アギーレによる『ダンシング・ベートーヴェン』だ。





 カメラはローザンヌと東京でのリハーサル風景を、交互に、ときにシンクロさせながら9か月をかけてたどってゆく。ケガや妊娠で降板するダンサーがいれば、抜擢されチャンスをつかんで飛躍するダンサーもいる。厳しい稽古に打ち込む彼らの姿と、その裏にあるドラマが丹念に綴られる。そして注目すべきは、インタビュアーを務める若い女優マリヤ・ロマン。思慮深い瞳でダンサーひとりひとりを見つめ、大指揮者ズービン・メータやベジャール・バレエ団を率いる芸術監督、ジル・ロマンにも臆せず質問をぶつけていく。





 彼女の正体が、実はジルの娘であることは、(想像がつくとはいえ)映画の半ばで明かされる。幼い頃からカンパニーの中で育ちながら女優という別の道を志した彼女は、カンパニーやダンサーたちに対して個人的な想いと客観的な視線を兼ね備えている。そんなマリヤの視点は、実はカンパニーの学校に所属していたことがあるというアギーレ監督の視点と重なり、このドキュメンタリーの重要な構成要素となっている。



PHOTOGRAPHS: © FONDATION MAURICE BEJART, 2015, 

© FONDATION BEJART BALLET LAUSANNE, 2015

 


 映画の中で、マリヤは“第九”に関わるさまざまな人たちに、まっすぐにこう尋ねる。「人類はみな兄弟だと思いますか?」そして「あなたにとって“喜び”とは何ですか?」と。それは、私たち観客ひとりひとりへの問いかけでもある。そしてジル・ロマンの言葉は、そのひとつの答えでもある。

「世界中のダンサーが舞台の上で仲よく手をつなぐんだ。このひどい世界でね」




『ダンシング・ベートーヴェン

12月23日(土)より

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開

公式サイト






  • 1