昨年、『ノクターナル・アニマルズ』の公開に際し、『シングルマン』に続いて映画監督としての才能を見せつけたトム・フォードは、エイズが猛威をふるった1980年代後半から90年代初頭、がんを患う同性の恋人と孤独な闘病を生き抜いた自身の過去を振り返った。それを知って初めて、彼が紡ぐ物語の鮮烈さの裏には、エイズを恐れる人々がいっせいに周りから去っていった当時を経験したことで得た人生観と、それに伴う狂おしい感情があることに気づかされた。


 またジョン・キャメロン・ミッチェルは、昨年、新作映画『パーティで女の子に話しかけるには』と2001年の監督作『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』とのつながりについて語った際、エイズ患者を見殺しにしたレーガン政権への怒りからゲイをカミングアウトし、パンクに向かった自身の過去を明らかにした。



BPMとは、ハウスミュージックに代表される音楽のテンポや心拍数の意味。

アルゼンチン生まれのナウエル・ペレーズ・ビスカヤート演じる

ショーンら若者たちの生の躍動がスクリーンからあふれ出す



 アーティストたちが恐怖と苦しみの中で自身の核を培った1980年代後半から90年代初頭。その時代の風景を焼きつけ、昨年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したのが、ロバン・カンピヨ監督作『BPM ビート・パー・ミニット』だ。


 カンピヨ監督自身、「80年代をエイズに怯えながら過ごし、92年に、『ACT UP』のスピーチを聞いて10年の沈黙を破ってカミングアウトし、自分も入団した」と語っている。アメリカ政府のエイズ対策強化を求める市民団体「ACT UP」は、1987年、ゲイ・メンズ・ヘルス・クライシスを立ち上げた劇作家のラリー・クレイマーの「きみたちは余命半年だ。さあ、どうする!」というアジテーションによって発足。エイズ患者、その家族や恋人ら関係者、病気と闘う医療従事者たちが、熱い議論と抗議運動、若者への病気の啓蒙を行った。『BPMビート・パー・ミニット』は、「ACT UP- Paris」に入団したカンピヨ監督自身の体験を交えながら紡いだ、鮮烈なフィクションである。



 ダルデンヌ兄弟の『午後8時の訪問者』等のアデル・エネルは、

フランスのオピニオン的若手女優。レズビアンを公言している彼女は

今回、「ACT UP-Paris」のメンバー、ソフィ役を演じている

PHOTOGRAPHS: © CÉLINE NIESZAWER



 舞台は90年代初頭のパリ。HIV陰性だが、「ACT UP - Paris」に加入したナタンは、エイズの蔓延やその原因に見て見ぬふりを決め込む政府や製薬会社への抗議を行うメンバーと行動を共にしていく。HIV陽性という現実を抱え、過激な行動を打ち出すべきだと主張するカリスマ的なショーンに惹かれてゆくナタン。愛する人を得て、ナタンとショーンは穏やかな慈しみのひとときを持つが……。


 26歳の若さで病に刻々と蝕まれてゆくショーンを演じたナウエル・ペレーズ・ビスカヤートをはじめ、若い俳優たちが体現する熱く、せつない群像劇。社会から阻害される彼らの怒りと哀しみ、死の恐怖、それでも輝きを放つ刹那の青春の輝き。フィクションとは思えない圧倒的なエネルギーを浴びれば、誰もが“今”の時間の豊かさに気づかされるだろう。



『BPM ビート・パー・ミニット』

ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国公開中

公式サイト