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 昨年のカンヌ映画祭を衝撃の渦に巻き込んで、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞、フランス・セザール賞と受賞を重ねてきた話題の映画『エル ELLE』が、この8月25日、ついにスクリーンに登場した。


 オランダからハリウッドに渡り、『氷の微笑』『スターシップ・トゥルーパー』など、「こんな映画観たことない!」と観客の度肝を抜いてきた異端の巨匠ポール・ヴァーホーヴェン監督の4年ぶりの新作。『ベティ・ブルー/愛と激情の日々』(1986)の原作者でもあるフランス人作家フィリップ・ジャンの小説『Oh……』の映画化だ。演じるのは、原作者が執筆中に頭に思い描いたという女優イザベル・ユペール。『ピアニスト』など、衝撃的な内容をものともせず、映画を芸術的レベルに引き上げるという点で目下向かうところ敵なしといえる攻めのフランス女優だ。



愛猫のマルティと不思議な共犯関係をむすぶヒロイン



 ユペール演じるヒロイン、ミシェルは、ゲーム会社で成功したビジネス・ウーマン。パリ郊外の瀟洒な屋敷で猫と暮らす彼女は、ファーストフード店で働き始めた息子と、若い恋人に浮かれる母親を経済的に支え、別れた夫のサポートし――というタフでエレガントな大人の女性だ。そんな彼女がある日、黒い目出し帽を被った男に押し入られ、乱暴される。ところがあろうことか、意識を取り戻した彼女は警察に通報することなく、淡々と割れた食器を片付け、風呂で血にまみれた身体を清め、何も知らず訪ねてきた息子と寿司を食べる。そしていつも通り職場に出て若い男性スタッフを叱り飛ばし、一方で密かに撃退スプレーや銃を買い込み、周囲の男たちを用心深く観察し始める。


 じつはミシェルには過去に大きなトラウマがあり、乱暴されたこと、そしてトラウマの原因である実父の仮出所のニュースが、封印していた暴力に対する苦い思いを呼び起こす。と同時に、親友の夫と不倫中の彼女の新たな性的欲望の扉もこじ開けられて……。そこからは、まさに予測不能のつるべ落とし!


 アメリカで制作準備をしていたヴァーホーヴェン監督は、ニコール・キッドマンやジェシカ・チャスティンら、怖いもの知らずで鳴らす女優たちにこのミシェル役をオファーしたが、みな尻込みして即座に断ってきたという。しかし、監督がアメリカ制作を断念し、ユペール主演のフランス企画に舵を切ったことは、映画にとって僥倖(ぎょうこう)だった。 



隣家の若い男の登場に、不倫相手をやきもきさせるミシェル



 今年6月のフランス映画祭で来日したユペールは、「挑発的な役柄、複雑な役柄であればあるほど燃える」と語り、「ミシェルは被害者でもなければ、復讐者でもない。彼女は乱暴されたとき、ショックを受けてはいるけれど、別のレベルに達している。恐怖も自分の弱さも乗り越えて、それを存在論的な経験としてとらえているの」と分析してみせた。「制作を通して監督とミシェルについて話し合ったのは、服と靴についてぐらいだった」と言うように、筋金入りのフェミニストであるヴァーホーヴェン監督に見守られながら、ドライで辛辣だがもろさも秘め、皮肉とユーモアを併せ持つヒロインを誕生させたのはユペール自身だといえる。


 複雑な過去を持ち、それゆえに屈折しつつ成熟した恐るべき女性のポートレイトを描き出した『エル ELLE』。英語なら“SHE”、“彼女”というタイトルのヴァーホーヴェン監督作は、原作よりもミシェルの周りの女性たちの強さ、複雑さ、底知れなさを強調し、“彼女たち”の群像劇としての面白さも際立たせる。ポスト・フェミニズム映画とも評される映画に男性陣はタジタジとならざるをえないかもしれないが、観賞後、女性にはぜひガールズトークに花を咲かせてもらいたい逸品だ。



『エル ELLE』

8月25日(金)より 

TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

公式サイト






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