ジェイク・ギレンホールには不思議なオーラがある。決して近寄り難いものではない。むしろ反対に、とても温かみにあふれ、こちらの言葉に注意深く耳を傾ける誠実さを感じさせる。だがその一方、慎重で控えめで、防御が固いイメージもある。きっとその内側にたくさんのもろさを抱えているのではないか、と想像させるような。


 今ではすっかりカメレオン俳優の評価が定着したギレンホールだが、彼にはやはりヒーローよりも、傷ついた繊細な男がよく似合う。たとえば『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(2015年)や『ノクターナル・アニマルズ』(2016年)。新作も例外ではない。2013年のボストン・マラソンを襲ったテロで、両脚を失ったジェフ・ボーマンの実話をもとにした『ボストン ストロング〜ダメな僕だから英雄になれた〜』は、ヒーローになりきれないふつうの青年の葛藤を描く。その視点がいかにもギレンホールらしい。みずからプロデュースをかってでるほどこの物語に惚れ込んだ彼は、その理由をこう語る。



ボストン・マラソンに参加した恋人をゴールで迎えるため

見学に行ったジェフ・ボーマンはテロに遭い、パニックのなか救出される



「ジェフ・ボーマンのストーリーに心を動かされたんだ。ふつうの男性が大変な悲劇に遭遇し、それを克服するだけでも大変なのに、突然テロの恐怖に対抗するコミュニティのヒーローにまつりあげられ、そのギャップに葛藤する。彼は望むと望まざるとにかかわらず、“ボストン・ストロング”(ボストンよ、強くあれ)という精神を象徴する存在になってしまうんだ。脚本を読んだとき、彼のこうした心の旅路、複雑さがとてもよく描けていると思った。ユーモラスで人間的な面も含めてね。僕自身がこのストーリーをスクリーンで観たい、と思ったのがきっかけだ」


 実話の重みに加え、本作が優れてユニークなのは、この手の作品にありがちなセンチメンタルなトーンに陥らないことだ。主人公はどこにでもいる平凡な青年だったという客観性とともに、乾いたユーモアを挿入することも忘れない。両脚を失った彼は、電話で恋人と会話する中で「いま踊っているんだよ」などというジョークを飛ばしたりもする。



テロで両脚を失ったジェフは、恋人に献身的につきそわれる。

だがショックと後遺症に苦しみ、彼をヒーロー扱いする周囲の変化に戸惑う



 献身的な役作りで知られるギレンホールは、ほぼ1年の歳月をかけてボーマンと親しくなり、彼と彼を取り巻く家族、ボストンのコミュニティに浸透していった。

「最初はとても不安だったよ、僕にジェフが演じられるだろうかと。僕が彼と親しくなれるか、彼の信頼を得られるかどうかも定かではなかった。でも彼はとても寛大で、すぐ打ち解けてくれた。『僕にできたんだから、君にもできるよ』と励ましてくれてね。もちろん彼が経験したことを考えれば、僕の苦労なんて比べものにならないけれど。でも気づいたのは、不安というのはとても人間的な要素で、きっとジェフ自身も毎日、自分はこの状態から抜け出せるだろうかと不安に駆られながらも、なんとか頑張って立ち直ったのだろうということ。僕はつねに演じる役からいろいろなことを学ぶけれど、この役ほど多くのことを教えられたことはない」


 ゆっくりと言葉を選びながら、彼はさらにこう続ける。

「テロや紛争にあふれたこの時代に、何が必要か? 僕らが日常的に恐怖を感じるのは避けられない。でも互いに心を通じ合わせることで恐怖を克服することはできるだろう。まさにボストン市民が『ボストン・ストロング』を唱えて団結したように。たとえば困っている人の肩に手をおいて、『僕はここにいるよ、君の助けになりたいんだ』と言うこと。ジェフの周りにはまさにそういう人々がいたわけだけど、些細なことのようでとても意味のあることだと思う。それこそ僕ら誰もができることであり、人々に希望を与えられる、誇れることじゃないかな」



自分の弱さやコンプレックスに苦しみ

感情をコントロールできなくなったジェフを支えたのは

恋人や家族、周囲の人々の存在だった



 純粋に思いやりに富み、不器用なほどに真面目。彼の言葉を聞いていると、そんな印象を抱く。父は映画監督、母はプロデューサー兼脚本家、姉マギーは女優という芸能一家に育ったギレンホールは、11歳で映画デビューした後、子役が陥りがちな罠を賢明に回避しながら着実にキャリアを築いてきた。それはひとえにその性格と、この仕事に対する愛情によるものだろう。


「僕は準備にたっぷり時間をかけたい。いろいろなやり方を試しながら、実際にパフォーマンスをする前に、静かに考える時間を必要とする。俳優の仕事はクラフトだ。スポットライトを浴びたり、華やかな場にいるイメージが強いから、往々にしてそういう面を忘れがちだけど、僕らの仕事の本質は職人のように地味なものだよ。リサーチをして、観察をして、演じるキャラクターの環境やその空間になじんで、それを感じることが大事だと思う。今回僕はジェフと一年を過ごして、医学的なこともたくさん学んだし、ジェフの周りの人々にもたくさん会った。でも僕にとってそれは特別な苦労ではなく、この仕事をやる上で当たり前のことなんだ」


 現在37歳のギレンホールは、ナイン・ストーリーズという自らの製作会社を最近立ち上げ、今後は自身が俳優として関わらない作品も積極的にプロデュースしていくという。

「僕は単純にこの仕事が好きなんだ。それにストーリーを語るというのは、もっともパワフルなことのひとつだと思う。才能があって、独自のビジョンを持った人たちと組んでいきたい。僕は早くから映画業界のなかで育ってきたから、そういう人たちを見つける嗅覚はあるんじゃないかな。いまはネットフリックスやアマゾンなど、新しい形態ができて映画制作の可能性が広がった。自分が若い頃、大きな影響を受けた映画があったように、僕もいま、多くの人にインスピレーションを与えられるような作品を作り出すことができたら嬉しいと思うよ」



ジェフは新しく立ち上げた製作会社ナイン・ストーリーズの

第1作目にこの作品を選び、みずからプロデューサーも務めた

© 2017 Stronger Film Holdings, LLC.  All Rights Reserved.

 Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc.  All Rights Reserved.



 映画は社会を変える力を持つと思うか、と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「もちろんさまざまなタイプの映画があっていいと思うけれど、映画のなかには社会に大きな影響をもたらすものがある。たとえば『ブロークバック・マウンテン』(2005年。愛し合うふたりの男性の苦悩を描いたアニー・プルーの短編小説の映画化で、ギレンホールが主人公のひとりを演じた)は、当時、社会的に大きな反響を呼んだ。僕は映画の力を信じている。少なくとも人々の心を動かして、何かポジティブなものをもたらすことはできるんじゃないかな。僕はそういうタイプの映画を大切にしていきたい」




『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』

5月11日(金)より TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

公式サイト






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