日本の怪談を、繊細な愛の物語へと昇華させた映画『雪女』 (c)SNOW WOMAN FILM PARTNERS

 抜けるような、という形容がぴったりの透明感。ひと目で人を惹きつけずにはおかない美貌のみならず、みずから監督業、そしてプロデューサー役もこなす多才ぶりが注目されている女優、杉野希妃の新作映画が3月4日(土)から公開中だ。監督3作目となる主演作『雪女』は、冒頭、吹雪に包まれる深山のモノクロのシーンから、終始、静謐な中にぴんと張り詰めた緊張感をたたえた、墨絵のような映像美でつづられる。

「4年前、ニューヨークで小泉八雲のエッセイフィルムを撮られているプロデューサーとお会いしたときに、何気なく『希妃さん、雪女やればいいのに』と薦められたのがきっかけでした。その後、おぼろげに知っていた雪女を含めて小泉八雲の『怪談』やその他の作品を読んでみて、八雲が伝えたかったものは、いま現代人が忘れてしまった、とても大切なものだったんだなと強く感じました」

 

 それはいわば、「目には見えないもの」の存在だと杉野は言う。

「いま、世界全体が過激な方向に向かって突き進んでいるのではという気がしているんです。声が大きい人の意見が通り、少数派の声は淘汰されていく。それはちょっと危険だなと。私はつねづね、人間という存在自体が実体のないものだと思っているんですが、たとえばどこから生まれてきてどこへ還っていくのかということすらわからないのが私たちという存在ですよね。雪女を演じながら、私の内側にも得体の知れない部分は確かにあるな、と感じていました。今は、そういう曖昧なものを線引きし、定義したがる風潮がある。でも、それはカテゴライズしたり言葉で表現したりする必要がない――というより、くっきりとした形にはできないものだと思うんです。そうした風潮に対するもどかしさみたいな思いも、この作品には込めたつもりです」

 

雪女と巳之吉が交わした秘密の「約束」。エンディングには杉野独自の解釈が加えられている (c)SNOW WOMAN FILM PARTNERS

 日本古来の伝承を淡々とした文章で綴った八雲の「雪女」に、独自の解釈で息を吹きこみ、命を与えた杉野の「雪女」は、人とものの怪の境にありながら、人々と深く関わろうとする。その雪女を演じる杉野や巳之吉役の青木崇高の演技も、そして映像全体にも、ひっそりとした“余白”が感じられるのも本作の魅力だろう。

「目には見えない“感覚”みたいなものを、観てくださる方に肌で感じていただきたいという思いはありました。脚本段階ではもっと饒舌だったセリフを、編集で大幅に削っていったのですが、撮った素材を見ながら、そういう方向がこの作品の世界には合っているんじゃないかと感じていましたね」