誰もがその名を知るヴァイオリンの傑作「ストラディヴァリウス」。現存する約600挺のうち21挺を集めてその奥深い魅力を多角的に“体験”する、かつてないイベントが開催される

BY SHOUKO FUJISAKI, PHOTOGRAPHS BY HIROMI NAGATOMO

 ヴァイオリンの名器といえば、ストラディヴァリウス。クラシック音楽ファンならずとも即答するほどその名を知られ、比類なき音色と称えられる楽器のマスターピースである。歴代の名手たちに愛奏され、1挺に億単位の値がつくのも不思議はないと言われる理由は、いったいどこにあるのだろう。

 そもそも今あるヴァイオリンの大まかな外形は「1550年ごろ北イタリア、ミラノ周辺のどこかの町で突如出現した」と、『新音楽辞典』(音楽之友社)に記されている。現存する最古のものは、北イタリアの、クレモナの職人アンドレア・アマティ(1505~1577年)の作。木彫りの伝統を誇るこのクレモナの町で17世紀に生まれたのが、ストラディヴァリウスの生みの親である楽器職人アントニオ・ストラディヴァリ(1644~1737年)だ。93年の生涯で作り上げた楽器は約1000挺とも言われ、彼が磨き上げたヴァイオリンのフォルムは現代の職人たちにも踏襲されている。グァルネリ・デル・ジェズ(1698~1744年)ら名工も後に続き、クレモナの名を世界的なものに高めた。

画像: 1718年製のストラディヴァリウス「サン・ロレンツォ」。マリー・アントワネットのお抱え演奏家が所有し、王妃もその音色を楽しんだ。側面にアントニオの直筆で「富と栄光はその家にあり」と記されている

1718年製のストラディヴァリウス「サン・ロレンツォ」。マリー・アントワネットのお抱え演奏家が所有し、王妃もその音色を楽しんだ。側面にアントニオの直筆で「富と栄光はその家にあり」と記されている

画像: 渦巻きが美しいストラディヴァリウス「ハンマ」(1717年製)のヘッド。アントニオ・ストラディヴァリ黄金期の逸品。職人が自身の彫像をあしらう楽器もある中で、アントニオは自己主張よりも楽器そのものの装飾性、美術性にこだわった

渦巻きが美しいストラディヴァリウス「ハンマ」(1717年製)のヘッド。アントニオ・ストラディヴァリ黄金期の逸品。職人が自身の彫像をあしらう楽器もある中で、アントニオは自己主張よりも楽器そのものの装飾性、美術性にこだわった

 そしてこの7月、現存する約600挺のうち21挺ものストラディヴァリウスを一堂に集め、その真価と魅力を多角的に証明する〈体験型〉の音楽祭、「東京ストラディヴァリウス フェスティバル2018」が幕を開ける。このアジア史上最大規模のイベントを発案し実行委員長を務めるのは、日本でただ一人のヴァイオリンキュレーターである中澤創太さん(日本ヴァイオリン代表取締役社長)。父がヴァイオリン修復家、母がヴァイオリニストという家で育ち、これまでに手にしたストラディヴァリウスは70挺に上るという。「作曲家や演奏家を軸にした音楽祭は多いが、楽器にフォーカスしたものは少ない。ヴァイオリンはクラシック音楽の中心。そのシンボルであるストラディヴァリウスの音色を聞き比べてもらい、現代科学によってその性能を可視化することによって、クラシック音楽の盛り上げにもつなげたい」と語る。

 フェスティバルの幕開けは7月1日、東京・赤坂のサントリーホール。三浦文彰(ヴァイオリン)と宮田大(チェロ)、そして特別協力の東京藝術大学と英国王立音楽院から選抜されたメンバーが計6挺のストラディヴァリウスを奏でる。続く8月17日は東京・銀座のヤマハホールで徳永二男が、10月1日はサントリーホールでマキシム・ヴェンゲーロフが、ストラディヴァリウスのヴァイオリンを弾き比べるリサイタルを開く。

画像: ストラディヴァリウスをはじめ、歴史的な楽器を多数収蔵するクレモナ市ヴァイオリン博物館 COURTESY OF TOKYO STRADIVARIUS FESTIVAL 2018

ストラディヴァリウスをはじめ、歴史的な楽器を多数収蔵するクレモナ市ヴァイオリン博物館
COURTESY OF TOKYO STRADIVARIUS FESTIVAL 2018

 フェスティバルの核となるのが、10月9日~15日に東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催される「ストラディヴァリウス 300年目のキセキ展」だ。クレモナ市ヴァイオリン博物館の全面協力を得て、ヴァイオリンを中心にヴィオラやチェロ、日本初上陸となるギターを含めアントニオ・ストラディヴァリの手による貴重な楽器21挺を展示し、それぞれを受け継いできた所有者と歩んだ歴史をひもとくほか、会場内ステージでの生演奏によって、かつてない近距離でその音色に触れることができる。

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