最新映画『ニワトリ★スター』の公開を控えた井浦 新。俳優、デザイナー、アートの伝道者と多くの顔を持つ彼の、尽きせぬクリエイティビティの源に迫る

BY MASAYUKI SAWADA, PHOTOGRAPHS BY TAKAHIRO IDENOSHITA, MAKEUP AND HAIR BY ATSUSHI MOMIYAMA, STYLED BY KENTARO UENO(KEN OFFICE)

画像1: 新たな境地に挑み続ける
俳優、井浦 新の原動力とは

 数々の映画やドラマに出演する人気俳優であり、みずから立ち上げたブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」ではディレクターを務め、日本の手仕事や、その職人たちを応援する活動も積極的におこなっている。井浦 新は、およそひと言では語れないほど、多面的な顔を持つ人だ。

 キャリアのスタートは、20歳のときに始めたモデル活動にさかのぼる。ファッションの世界に触れていくうちに、やがて服づくりに興味を持つようになり、ブランドを設立。それとほぼ同タイミングで是枝裕和監督から声がかかり、映画『ワンダフルライフ』に主演し、役者としての歩みを本格的に始動させた。

「映画出演の話は本当に突然だったので、僕の中で役者という意識はまったくなくて、最初はちょっとした記念みたいな感じだったんです。それが20年近くも続いているわけですから、面白いですよね。振り返ると、監督をはじめ、共演者やスタッフとの出会いが本当に大きかったと思います。そうした出会いを通じて、演じることの難しさや楽しさを知り、人に対して関心を持つようになり、自分ひとりでは間違いなくたどり着かなかったであろう世界を見ることができました。特に是枝裕和監督と若松孝二監督との出会いは大きかったです。僕はこのお二人によってつくられたといっても過言ではありません。お二人の演出が自分にとってのベースになっていて、そのうえでさまざまな監督のもとで学びながら、とりあえず目の前の1本に集中して取り組むことで、何とかここまでやってきました」

 ここ数年はオファーが引きも切らず、映画にドラマにと出演作が相次いでいる。その人気のワケは、やはり役者としての圧倒的な存在感にあるだろう。たとえそれがどんな役であっても、この人が画面に現れるだけで何かが起こりそうな気にさせてくれるのだ。最新作は3月17日に公開される『ニワトリ★スター』。監督からは、かつて見せたことのない井浦新の新境地を求められ、現場自体はかなり破天荒だったそうだが、当の本人は役作りに対して驚くほどフラットで自然体。大仰に構えることがない。

画像2: 新たな境地に挑み続ける
俳優、井浦 新の原動力とは

「お芝居って、数式みたいに100%の正解がないんです。監督の指示は当然ですが、カメラの動きだったり、共演する役者さんの演技だったり、いろんなものから影響を受けてできあがっていくものだから、狙ってやってもうまくいかない。自分から何か意図的にやろうとすると、たいてい失敗します。表現って、いかに純度の高いものを生み出していけるかが面白さであって、それがいちばん大事だと思うんです。作り手の生き方とか考え方とか、いろいろなものが混ざり合って、それをぎゅっと絞ったときに出てくるその一滴が純粋な表現だと思うんですけど、そこに意図や狙いが入り込むと途端に不純物が出てきてしまう。頭で組み立てたことをやるのではなく、意識と無意識の狭間というのか、現場で何かが生まれようとしているその瞬間にどれだけ反応できるかだと思います。言ってしまえば、出たところ勝負です。目の前に来たものをとにかく必死に打ち返す。その繰り返しが、ありがたいことにたまたま伝わっただけであって、僕自身やっていることはずっと変わらないんです」

 2013年にNHK『日曜美術館』の司会に抜擢。美術史家 山下裕二が団長を務める「日本美術応援団」の団員であり、また日本の手仕事と、その職人たちを応援する活動をおこなうなど、アートや文化に関わる仕事も多い。役者やファッションディレクターの仕事を含め、そのクリエイティブな活動を支えるインスピレーションの源は旅だという。美術や歴史を体系的に学んだわけではないが、独学と旅を通じて得た、専門家顔負けの知識と経験がある。

「旅は僕にとって、さまざまなものと出会い、発見をし、インスピレーションを受ける最大のエネルギー源です。なぜこんなに旅が好きなのかといえば、父の影響が大きいと思います。父は旅好きで、僕が子どもの頃からいろいろなところの遺跡や神社仏閣、美術館に連れて行ってくれました。父に手を引かれて体験したことを、大人になった今も一人で続けている気がします。仕事を始めるようになって、少しずつ旅から得たものを表現として発信できるようになると、旅の意味合いはさらに深まっていきました。旅をすれば必然的にその土地の歴史に触れることになり、歴史をたどっていくと人々の暮らしの営みや、そこから生まれた文化に出会います。今まで知らなかったことがどんどん出てきて、それがだんだんと線になっていく過程が、本当に刺激的で面白い。僕が変わらず好奇心を保ち続けることができるのは、旅を続けているからだと思います」

画像: Tシャツ ¥ 6,000 (ELNEST CREATIVE ACTIVITY / MIGHTRY)、 ジャケット ¥ 46,000、オーバーオール ¥ 43,000(ともに ENGINEERED GARMENTS / NEPENTHES)、 その他スタイリスト私物

Tシャツ ¥ 6,000 (ELNEST CREATIVE ACTIVITY / MIGHTRY)、
ジャケット ¥ 46,000、オーバーオール ¥ 43,000(ともに ENGINEERED GARMENTS / NEPENTHES)、
その他スタイリスト私物

 役者の仕事も言い換えてみると、さまざまな監督の下でさまざまな現場を旅して回るようなものだ。服をはじめとしたものづくりにおいても、机の上であれこれ考えることも大事だが、気になることがあればとりあえずそこに行ってみる。そうすると、何かしらの出会いや発見があると話す。

「あくまでも僕の場合ですが、何か興味があって知りたいことがあったら、インターネットなどで情報を仕入れるだけではなく、やっぱり自分の足で現地に出かけていって、ちゃんと見て、学ぶようにしています。例えば、何十年もただひたすら木だけを削り続けてきた人の芯の強さとか、そこからにじみ出る人柄は、実際にお会いすることでしかわからないわけです。しかも、その経験は確実に芝居にも生きてきます。そういう意味でも、僕にとって旅というのは、すべての活動の原動力になっていると言えます」

 近いうちに旅してみたいなと思っている場所はどこですか? 話の流れでそう尋ねると、「挙げたらキリがないです。地名を挙げていくだけでこのインタビューは埋まっちゃいますよ」と笑う。

「もちろん、ひとつの場所に感動して、自分にとってすごく大切な場所となって何度も繰り返し訪ねることもあります。ただ、見たことのない新しい景色も見てみたい、知らなかった世界を知りたいという欲求はいつも自分の中にあって、僕を突き動かしています。結局、自分自身に飽きたくないんですよね。自分に飽きたらもう終わりなので、飽きないようにするために好奇心が働いているのでしょう。僕は子供の頃から飽き性で、それなのに、なりたくて始めたわけではない役者の仕事を20年も続けてこられたことに驚いています。続けられたのは、お芝居の面白さだったり、難しさだったりを感じられたからです。ものづくりも同じで、うまくいかないことのほうが多いですが、継続は力なりという言葉があるように、信念をもってやり続けていると何とかなるものだなと実感しています。20年やってきたといっても、まだまだ先はあります。僕はありがたいことにいろいろな活動させてもらっていて、今やっていることでさえも下手をすると両手からこぼれ落ちてしまいそうになる。それらを確かなものとするために、ひとつひとつをもっと深く、それこそ人生を懸けて追求していきたいと思っています」

 物理的な移動を伴う肉体の旅と、みずからの内面と向き合う精神の旅。それらの旅を通して紡がれた真摯な言葉の数々に触れると、なぜ多くの人が彼と一緒に仕事をしたいと思うのか、その理由がよくわかる。現在、43歳。役者としてもクリエイターとしても一段と深みを増し、豊かになっていくであろうこれからこそ、いよいよ本領発揮のときだ。

『ニワトリ☆スター』
2018年3月17日(土)より順次全国公開
公式サイト

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