「特別好きな色はない」というセヴラン氏だが、

ピンクやパープルのトーンを着ることが多いという。

今回は、10月まで開催されていた写真展のための来日で、滞在は1カ月。

持参したスーツは9着で、毎日その中で色合わせを考える。

短期間で同じ服装はしないのがポリシーだ。コンゴでのサプールの活動を、

カメラマン茶野邦雄氏が撮り下ろした写真集が現在発売されている。


『THE SAPEUR コンゴで出会った 世界一おしゃれなジェントルマン』

 ¥2,500(オークラ出版)

 いくつかの問題を抱えているにせよ、日本に暮らす私たちは基本的に平和の中で生きている。だからこそファッションに興味や関心を持つことができる。戦争や内紛に揺れる国で、平穏に生きることすらままならない人々が、ファッションが世界を平和に導くなどと、本気で信じられるだろうか。それはとても結びつきにくいキーワード同士である。サプールの存在を知るまでは、誰もがそう思うはずだ。


 世界最貧国のひとつとして知られるアフリカ中部のコンゴ共和国。平均月収が3万円前後の生活水準で、気温が年中30°Cを超える常夏の国に、色鮮やかな高級スーツを着る集団がいる。彼らは「サプール(おしゃれで優雅な紳士協会の意)」と呼ばれ、そのファッションは「サップ」という。着飾って街を練り歩くことで、戦わない姿勢をアピールし、平和を呼びかける。組織ではあるが、明確な活動方針やルールはない。


 9月に来日した、60歳を超えた今もなお現役の大サプール、ムイエンゴ・ダニエル、通称"セヴラン"氏に話を伺った。まずサプールになるために必要なことを尋ねると「洋服を何十着も持っていること、それがサプールになる条件です。特に資格はありません。私もそうですが、父の影響でなる人が多いです。弟子に入り、見習いを経験すればサプールになれます」とゆっくりと丁寧な口調で答えてくれた。フランス語でも、そのジェントルマン気質が伝わってくる。サプールは師弟制度によって成り立っており、きわめて芸術的で精神的な結びつきによって継承されている。


 洋服のセンスや、何を着るかもまたしかりだ。「着こなしは、身近なサプールからインスパイアされて洗練されていくことが多いです。私は、ティノ・ロッシという昔のフランスのシャンソン歌手のスタイルに憧れていて、彼の写真などを見てセンスを磨きました。しかし大事なことは、おもてなしであり、思いやりです。今日花柄のスーツを着ているのは、日本人が花をとても愛しているから。そしてシャツやタイの色や柄も合わせています」。特に明言はしていないが、おそらくセヴラン氏が言いたいのは、ただ華やかさを競うために着飾っているわけではないということ。相手を知り、考えたことを着こなしで表現している。その精神と作法にこそ、サプールが伝えたい平和へのメッセージが含まれており、スーツはツールにすぎない。


「サップの格好で踊ったり、ステップを踏んでいると、まるでほろ酔いのような、空を飛んでいるような気分になれます。それもまた、ひとつの平和の表現ではないかと思っています。私は食べ物よりも洋服を買うときのほうが幸せな時間であり、うれしい。スーツは一年で4着ほど、アクセサリーは毎月たくさん買っています。買いに行く前は、買い物をしているときを想像し、買い物しているときは、着るときを想像して楽しむことができます。まるで子どものようです」


 ファッションを単なる娯楽と思えることは、いかに幸せか。彼らのピュアな欲求と愛情は、命がけで得た経験から生まれたものであることを忘れてはならない。






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