2017年プレフォール・コレクションより


 この8月、デザイナーのアラン・ブアンネはペルーへ旅行に出かけた。いっぷう変わったその旅の目的は、ペルーでもっとも標高の高い場所に咲く蘭の花を見に行くこと。蘭は、彼が長年の友人でスタイリストのヴァニッサ・アントニウスとともに2015年にロンドンで立ち上げたシューズブランド「ネオアス」の主要なインスピレーション源のひとつだ。


「蘭には人を魅了するシンプルさがある。それがすごく美しいと思うんだ」とアラン。彼の祖父と父は、ともに品評会に出品するような蘭の栽培家だったという。「今ではもちろん、私も蘭に夢中になっているの」とヴァニッサがつけ加える。

 




 10年以上前、お互いの出身地であるシドニーの小売店で働いていたときに出会ったというふたり。彼らは蘭の花から得たイメージを、シューズのデザインとして慎重かつ控えめに表現する。「ぱっと見ただけではわからないでしょう」とヴァニッサ。「だけど形跡はあるの。特徴的な色の組み合わせにも、爪先についたトゥキャップのカーブにもね」。そうした事情にふさわしく、それぞれの靴にはひそかに名前がつけられている。「ファイウス」や「プレイオネ」といったシューズの名前は、さまざまな蘭にオマージュを捧げ、その学名からとられたものだ。


 発想源が蘭の花だとはいえ、目に見えるところに花の姿はない。アランはブランドの美学をこう表現する。「言葉の本来の意味、真の意味においての“ミニマル”。それは、全然シンプルではないものを完全にシンプルに見せるということなんだ」。さらにヴァニッサはこうつけ加えた。「私にとっては、ある種のアートとか、ある種のファインジュエリーを見たときに感じる気持ち。完璧に理想的な状態で、何かつけ加える必要もなければ削除する必要もない、そういうものを見たときの気持ちね。私たちはそれと同じ感情を、私たちの靴に対しても持たせたいと思っているの」





 彼らは、自分たちが目指すマーケットを最初から明確に意識していたと言う。「ちゃんとしたつくりでかつ現実的な価格帯の、シンプルでモダンなデザインのシューズが明らかに市場に欠けていることに気づいたんです」とヴァニッサ。彼らの作る靴の価格は、350ドル(約38,000円)から700ドル(約77,000円)といったところだ。ヴァニッサは、かつて英国版とオーストラリア版の『ハーパース・バザー』誌でマーケット・エディターとして働いていた。その間に、ラグジュアリー市場、なかでも靴やバッグなどのアクセサリー市場に関する広範な知識を得たのだ。


 こうしたヴァニッサの知識は、アランの経歴を完璧に補強するものだった。アランは伊・フィレンツェのファッション専門学校ポリモーダでフットウェアデザインを学び、伝統的な靴職人としての訓練を受け、オーダーメイドの紳士靴を作る技術を習得。卒業後、彼はロンドンに移住してイギリスのシューズブランドであるニコラス カークウッドで5年間働き、その後、ピーター ピロットやソフィア ウェブスターといったブランドのコンサルタントを務めてきた。