薪窯の片側で薪を焼き、炎がおさまってから、網の下に薪を移して肉を焼いていく。

窯が見えるカウンターが特等席。「TACUBO」にて

PHOTOGRAPH BY MASAHIRO GODA

 ガストロノミー界では、ここ十数年、エスプーマ*や液体窒素などを駆使した驚きのある料理がもてはやされてきた。その潮流は、北欧や南米で新奇な食材を求める動きへとつながっていった。一方、サプライズを求める流れの対極に目を向け始めた料理人たちが、最近、新店をオープン、もしくはリニューアルしている。彼らが注目したのは「火」だ。薪を燃やして熾おき火び で、あるいは炭火で肉を焼く。薪火や炭火を見ながら、客は料理を味わう。この「原点回帰」がもうひとつの潮流になろうとしている。

 

*亜酸化窒素を使い、食材を泡にする調理法。

 

「田くぼ牛の薪焼き」。季節の野菜の炉窯焼きが必ず添えられる。折々の季節の野菜をストウブ鍋に放り込み、燃える薪のそばに置いて2時間。驚くほどトロリとなった玉ねぎが美味。 PHOTOGRAPH BY MASAHIRO GODA

 今春移転し、店名を「アーリア ディ タクボ」から「TACUBO」に変え、新たな料理に挑戦し始めた田窪大祐シェフ。都内では珍しい開放型の薪窯をカウンター席の真ん前に置き、薪火で肉を焼く。「独立して10年。女性目線のきれいな料理を作らなきゃとやってきたのですが、やっと肩の力が抜けたのかな。うまい!って人間の本能に訴えかける料理を作りたいと思ったんです。それには原始的な調理法がいいなと。時代には逆行しますが、僕にとっては新鮮な手法でした」

 ナラの薪をガンガン燃やす。その間、シェフはずっと火の前に立ち、汗だくで炎を見続ける。熱とまぶしさで目が痛くなることも。薪の火が収まって熾火になってから、肉を焼き始める。「炭と違い、薪は水分を含んでいるので、肉が乾かず、焼き上がりがしっとりします。肉自体が気づかないうちに火が入り、表面を焼き上げたとき、肉の細胞がぐぐっと花開くって感じがするんです」。なんとも楽しげにシェフは話す。