鮮やかな緑色のイル・フロッタント(カスタードクリームにメレンゲを浮かせたデザート)のような作品は 「ギブズ」と呼ばれている。
 ティスによれば、世界の食料不足の一因は、食料を運搬する際、実際に運ばれるのは水分であり、その水分が食料の鮮度を奪うからだという。にんじんはそのほとんどが水分からできている。トマトもりんごもなすも、その他多くの果物も野菜も同じだ。冷蔵されていない限り、水分を多く含んだ栄養素は、微生物が増えるのに最高の環境を提供してしまう。食物を運搬する際に冷蔵するのは高くつくし、環境にも非常に悪い。





“「私たちは、何だかよくわからないものを食べようとはしない。
だから私はシェフたちを味方に引き入れているんだ。
人は有名人がらみのものならなんでも欲しがる。
レディー・ガガがピンクのシャツを着れば、
みんながそのシャツを欲しくなるようにね」”
ル・コルドンブルーのシェフたちが創作した芸術的な 「レモンのそよ風」。 ティスの料理法に従って作ったレモン味のゼリー。
 ティスが提案しているのは、〝湿った〞食物を国から国に運んだり、大陸間で輸送したりするのをやめて、代わりに食物をパーツに分解してしまうという方法だ。つまり、食物の栄養素と味をいろんな種類の粉体や液体に分けていくのだ。分解された物質は、理論上はほぼ永遠に腐らないし、料理の材料として使うことができる。食物の多くの基本的な構成要素には聞き慣れない名前がついているが、その味と匂いは誰もが知っているものだ。たとえばイソチオシアン酸アリルは、辛子の種に含まれている化合物で、わさびのような匂いがする。1-オクテン-3-オールは、野生のまつたけの香りがする。濃度の程度により、ベンジルメルカプタンは、にんにくやホースラディッシュ、ミントやコーヒーなどの匂いを放つ。デカナールはオレンジともアンズとも感じられる香りだ。「どうして同じ化合物でも、濃度が違うとカレー味になったりメープルシロップの味になるのか、誰も解明できていないんだ」とティスは言う。「味覚の生理学は、ワクワクさせてくれる分野だ。私の研究仲間たちは毎月、新しい発見をしているよ」