この5月16日(水)から19日(土)まで、東京・四谷のフランス料理店「北島亭」に、パリの魚介料理専門店「ル・デュック」がやってくる。1967年創業で、昨年開業50周年を迎えたこの老舗レストランは、パリで初めて“生の魚”をメニューに載せた店だ。


“ヌーヴェル・キュイジーヌ”、フランス語でいう「新しい料理」という呼び名はいまや世界中で知られているが、その端緒は1960年代にさかのぼる。重く濃厚なソースや複雑精妙なレシピを特徴とする伝統的なフランス料理から、新鮮な素材の持ち味を生かした軽やかでシンプルな調理法、形式の枠にとらわれない自由で斬新な盛り付けへ――。フランス料理の帝王と呼ばれ、今年1月に亡くなったポール・ボキューズをはじめ、アラン・シャペル、トロワグロ兄弟といった気鋭のシェフたちが、この頃、パリを中心に新しいフランス料理に取り組みはじめていた。



パリのモンパルナスにある「Le Duc」。

手長エビやオマールエビ、ムール貝、サーモン、鯛、スズキなど、

地中海や北海、大西洋から届く新鮮な魚介の料理がメニューに並ぶ



 当時、圧倒的な肉食文化であったフランスでは、魚料理の評価は低く、魚料理をメニューにおくレストランもほとんどなかった。そんな中、シェフのジャン・ミンケリ氏は、「メニューを魚介料理だけにする」という思い切ったコンセプトのもと、パリ左岸のモンパルナス地域に「ル・デュック」を開いたのだ。オープン当時について、ミンケリ氏夫人のジャンニーヌさんはこう語る。「彼はマルセイユの出身で、食生活の中に当然のように海の恵みがある環境で育ちました。また、バカンスでイル・ド・レなどの大西洋の島をたびたび訪れ、地中海とはまた別の魚料理にも多く触れていました。ヌーヴェル・キュイジーヌが芽吹いた時代を背景に、料理人としてのジャンの情熱が魚料理に向かったのは、ごく自然な流れだったのだと思います」



「ル・デュック」の定番料理のひとつ。

殻でだしをとった濃厚なスープに、弾力のある身の肉をぜいたくに

“nage”した(=泳がせた)“手長エビのナージュ”



 いまでこそあたりまえとなった生魚のカルパッチョやタルタル、オリーブオイルと塩だけのシンプルなグリルやブイヤベースといった、海辺の町と変わらない新鮮な魚介料理にパリのエスプリを加えた「ル・デュック」の料理は、パリジャンたちに斬新な美食として歓迎された。たとえば肉と魚介を合わせた“牡蠣クリームソース仕立ての牛ステーキ”といった料理も、この店ならではの革新的なメニューだったという。ちなみにこの料理はいっときメニューから消えていたのだが、夫妻の息子で現オーナーのドミニクさんがとあるレストランで見知らぬ客から「ブルーに焼いた(数秒だけあぶった極レアの)牛ヒレに、軽く火を入れた牡蠣をクリームとコニャックでソースにして食べさせるあの料理が忘れられない!」と言われ、メニューに復活させたというエピソードもある。