ここ数年、アメリカワインの進化が著しい。テロワールを反映した、ニュー・カリフォルニアと呼ばれる繊細な味わいのワインを筆頭に、世界的に高評価を受けるオレゴンのピノ・ノワール、個性豊かなブティック・ワイナリーが台頭するニューヨークなど、話題は尽きない。そんな中、“オレゴン期待の星”と注目されるのが、「イヴニング・ランド・ヴィンヤーズ」だ。


 率いるのは、カリフォルニアのサンタ・リタ・ヒルズの人気ワイナリー「ドメーヌ・ド・ラ・コート」のアントレプレナーとして知られるラジャ・パーと、敏腕ワインメーカーのサシ・ムーアマン。ラジャ・パーは“IPOB(In Pursuit of Balance=バランスの探求)”を提唱、「アルコール度数の高いワインには微妙なニュアンスが出せない」と、カリフォルニアのワイン界に一石を投じた人物だ。その彼が、“テロワールの探求者”でもあるサシ・ムーアマンをビジネス・パートナーとして手がけるオレゴンワインとあって、その注目度は限りなく高い。



今回、「醸造家として」は初来日のサシ・ムーアマン。

日本人の母をもつ日系2世で、2歳から5歳まで東京で育った。

「私の本名は武蔵といいます。日本人は、四季折々の自然を尊び、

伝統的な職人の技を大切にしますが、私も

ワイン造りに向き合う時、自分の中に日本人らしさを感じます」



 4月にオレゴンワインの醸造家として初来日を果たしたサシ・ムーアマン。オレゴンの畑について、こう語ってくれた。

「『イヴニング・ランド』の名は、ギリシャ神話に由来します。不死をもたらす果実がたわわに実る場所という意味があるのです。ここは、とにかく西日が強い場所で、注意しないとブドウが過熟してしまう。だから、私たちは果実が熟しすぎないよう、あえてこの土地では日照時間の短い東向きの畑でピノ・ノワールとシャルドネを育てています。そして、早めの収穫をすることで、酸をしっかりと残し、繊細でモダンな味わいのワインをと心がけているのです」


  冷涼なイメージのオレゴンだが、じつはブドウが過熟しやすい土地だと、彼は言う。今、オレゴンのピノ・ノワールは世界的にも評価が高いが、その多くは果実味が豊かなもの。だが、彼は、骨格はきちんとしていながらも、どこかほっそりとしたイメージのワインを造りたいと話す。

「偉大なワインはバレリーナと同じです。美しく、とてもしなやか。でも、そうあるために、裏では大変な努力をしている。私たちのワインも、そうありたいと思っています」



(写真左から)「イヴニング ランド ヴィンヤーズ 2015 

セブン スプリングス エステート シャルドネ」

<750ml>¥5,900。シャルドネ100%。

一部ビオディナミのブドウで造られたシャルドネは、

ピュアな酸味としなやかなミネラルが際立つ


「イヴニング ランド ヴィンヤーズ 2015 

セブン スプリングス エステート ピノ・ノワール」

<750ml>¥5,900。ピノ・ノワール100%。

手作業で収穫と選果を行い、一部ビオディナミで栽培。

フレンチオークで12か月間熟成、無濾過・無調整で瓶詰め。

繊細な果実味とシルキーな飲み口が魅力的



 これには、サシ・ムーアマン独特の、ある考えが反映されている。

「ワインは、時代によって求められるものが違うと、私は考えます。例えば、昔ながらのソースをたっぷりと使ったフレンチのフルコースには、ボディッシュでコクのあるワインが合っていました。でも、80年代にヌーヴェル・キュイジーヌが台頭したことで、ワインも少しずつ軽やかになる兆しが見えてきました。そして今の時代、たとえば北欧やカリフォルニアのモダン・キュイジーヌが注目されるようになり、素材の味を生かした軽やかな味わいの料理が多くなってきました。そういった料理には、やはり繊細なワインがよく合います。料理は時代によって変わる。ワインも、然るべきだと思っています」



オレゴン州エオラ・アミティ・ヒルズにある「セブン・スプリングス」の畑。

ブドウは有機栽培とビオディナミ農法で育てている。

「太陽が沈む場所」というだけあり、夕陽が美しい



 また、彼の目を通してオレゴンの地を見てみると、その面白さはピノ・ノワールとシャルドネにこそある、とムーアマンは言う。

「ピノ・ノワールとシャルドネは、テロワールによってそのスタイルを変える。果実味の豊かなもの、酸が繊細なものというようにね。それは、それだけ品種に強い個性がないからだと、私は思っています。たとえば、カベルネ・ソーヴィニヨンなら、どこの地で育っても力強い。つまり、オレゴンの魅力は、今の時代に即した軽やかなスタイルのワインが生まれる可能性が高いところにあると思うのです。ブルゴーニュもピノ・ノワールとシャルドネが主品種ですが、有名銘柄は驚くほど値が高い。今、オレゴンからはブルゴーニュに比肩するワインも多く出てきています。まさしく、今がオレゴンにとってのチャンスであるといえるでしょう」


 彼の話を聞いて感じるのは、テロワールへの畏敬の念と、醸造に対する細やかな配慮だ。“透明感としなやかさのあるワイン”を理想とし、ワイン造りに取り組む姿は“クラフツマン”そのもの。彼が生み出すオレゴンワインが、今後、世界にどのように旅立つのか、興味は尽きない。




問い合わせ先

ワイン・イン・スタイル

TEL. 03(5413)8831

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