人目につかない場所で

人里離れたところにあるフレンチマンズコーブを海から見た光景。

この入り江はポートアントニオで最も美しい ビーチとよく称賛されている。

写真下は地元で人気のハンバーガー店、ウッディーズ・ロウ・ブリッジ・プレイス

PHOTOGRAPH BY ALICE GAO


 ジャマイカ北東部の海岸にある、ジャングルに囲まれた町、ポートアントニオ。昔から、この町はちょっと特別な気だるい魅力で知られている。その魅力をいちばんよく表現しているのが、エロール・フリンの妻で、映画女優だったパトリス・フリンを1955年に撮影した一枚の写真だ。その写真の中では、パトリスが砂だらけの狭い道で馬の背中に乗り、エロールがその横を歩いている。彼の白いシャツのボタンははずされて、はだけている。その光景のすべてが、もうじき日が暮れて、カクテルのダーク&ストーミーをどこかのベランダで味わうのだろうと想像させる。この写真はポートアントニオの黄金時代の幕開けの象徴だ。当時、グレース・ケリーや、リチャード・バートンと一緒にヨットに乗ってやってくるエリザベス・テイラーが、お忍びでリラックスするために選んだ場所なのだ。

 今では、そんな当時の魅力は色あせてしまったが(1970年代に栄えたバナナ貿易も廃れたように)、この町は素晴らしくロマンティックな思い出の名残の宝庫だ。商店の立ち並ぶこの小さな町を車で走ると、からまった植物のつるの間に垣間見えるさまざまな廃虚の中の、複雑な形をした門を通りすぎる。そのひとつひとつが、かつての豪邸や放置された大ホテルの名残なのだ。

 そんな中、今広がっているのが、新規開発の動きだ。この町の魅力は、この島で最も観光地化され、巨大なクルーズ船が停泊する町、ここから約193キロ西にあるモンテゴベイなどの町がはらみがちな危険な状況(耽美的なものと犯罪がらみなもの)から完全に隔離されたところにある(キングストン空港はポートアントニオから約108キロ南に位置する)。さらに、この町には退屈極まりないものはひとつもない。たとえば芝生のクリケット場やジントニックに代表されるような、ジャマイカで冬の休暇を過ごすための古めかしい施設などは見あたらない。テーブルに白い布のテーブルクロスがかかっているレストランなどないし、輸入食材でとんでもなく高騰した"カリビアン価格" を提示するレストランも存在しない。ここは、木曜日の夜に車でやってきて、植民地時代の古いプランテーションハウスを通りすぎれば、地元の住人が参加するストリート・パーティの陶酔するような音楽のリズムに包まれて、すべてを忘れることができるジャマイカなのだ。