里山十帖 COURTESY OF SATOYAMAJUJO
YOSHIHARU HOSHINO●株式会社星野リゾート代表取締役社長。長野県軽井沢町生まれ、慶應義塾大学卒業後にアメリカ、コーネル大学ホテル経営大学院修士課程へ。その後先代より引き継いだ旅館業に革命を 起こし、1991年から現職。宿泊施設ほかブライダル事業も含め国内外に事業を展開中。 PHOTOGRAPH BY SATOKO IMAZU



『星野リゾート』

星野佳路


 国内のみならず、世界市場にも名を知られるリゾート運営会社「星野リゾート」。ここ数年で急速に増え続ける傘下の物件の中で、世界的にも大きな注目を浴びているのが、東京の中心地大手町に今夏開業した「星のや東京」だ。都心での天然温泉を有する高級旅館の開業は、日本の観光史上初の事業として、またも観光業界に新風を吹き込むことになりそうだ。その詳細が初めて明らかになったのは4月13日の定例プレス発表会の席。玄関で靴を脱ぐこと、屋上には温泉大浴場、各階への〝お茶の間ラウンジ〞の設置など、都会のど真ん中の日本旅館としてスタートする「星のや東京」が披露された。

 軽井沢の旅館「星野温泉旅館」に始まった星野リゾートは、今年で102年目を迎えた。星野佳路代表は「海外のホテル業界では当たり前のことが、日本ではできていなかった」と代表就任以来、宿の所有はせず、運営だけを行う運営特化の手法で次々と旅館の再生に着手。観光業界を先導するリゾート運営会社となった。観光業界に大きな風穴を開けた星野リゾートの事業の陰には、「観光産業は経済を牽引できるはず」と信じる氏の勝算があった。確かな投資家とタッグを組み、取り組んだ旅館の再生事業を成功に導くことで、傘下の旅館がリターンを生み、投資家の期待にこたえるというスパイラルを築いている。「リート(不動産投資信託)が安定すれば、『界 鬼怒川』のように新築の旅館運営にも踏み切れる」と語る。

 星野リゾートの各ブランドがこれほど支持される理由は何なのか。「それはスタッフのモチベーションコントロールができているからかもしれません。スタッフはみなさまに満足してお帰りいただきたいという気持ちを維持し、実現するために努力をする。そのスキルやマインドを備えたスタッフが現地でみなさまをお待ちする。これが星野リゾートの約束事なんです」と分析。現場ではやはり〝人〞なのだ。また、星野氏が常に重要視する〝地域の特性を生かした運営〞も星野リゾートの人気を支えている。

星のや東京●東京都千代田区大手町1 の9 の1 0570-073-066(星のや総合予約) 客室数:全84室 2016年7月20日開業 hoshinoyatokyo.com COURTESY OF HOSHINO RESORT
 インタビューでは常に本音を語ってくれる氏の言葉から見えてくるのは、ジャパン・ツーリズムの明日だ。「今ほど観光にプライドがもてる時代は過去にはなかった。星野リゾートが旅館に求めるのは、生産性、効率性の高い運営特化というやり方。『星のや東京』の開業でこの手法が成功すれば、今までの日本の旅館とは違う運営特化型旅館として世界に飛躍できる。これが星野リゾート最大の特徴だ」と言い切る。氏が以前か らずっと言い続けてきたこと、「RYOKANを世界に発信し、その実力を世界市場に定着させたい」という願いも現実味を帯びてきた。
 ぶれない意志と有言実行、情勢を読み解き、冷静な判断力で邁進する人に人はついていく。1898年、世界初の最高級ホテルブランドをパリで確立したセザール・リッツ、1920年代、最高級ホテルを世界に広め初めてチェーン展開したコンラッド・N・ヒルトン、80年代、ラグジュアリーの概念を覆し優美なリゾートで〝アマンマジック〞と称賛されたアマン。歴史は繰り返されるというが、繰り返してほしい。今、星野リゾートは「RYOKAN」という日本伝統の本物の〝宿〞を世界に披露しようとスタートラインに立っている。カリスマの偉業とは、いつの時代も誰もやらなかった新たな挑戦から始まっている。旅館の存在が世界市場にいつの日か定着すれば、日本の観光業の変化は想像をはるかに超え、観光大国への道を歩むことも夢ではなくなるだろう。