せきね きょうこ 連載
新・東京ホテル物語<Vol.12>

New Tokyo Hotel Story “THE TOKYO STAITON HOTEL”
ホテルジャーナリスト、せきね きょうこが独自の視点でおすすめの東京ホテルを案内。連載第12回目は、復原された駅舎が “唯一無二”の存在感を誇る「東京ステーションホテル」

BY KYOKO SEKINE

 日本の首都・東京の玄関口である東京駅を象徴する、エキゾチックな赤レンガ造りの“東京駅丸の内駅舎”が、長い工事期間を経て蘇ったのは2012年10月のことである。駅舎の一部として1915年(大正4年)に開業した「東京ステーションホテル」も、それに伴い大規模リニューアルを経て生まれ変わった。

 昨年末の2017年11月下旬には、ホテル前の駅前広場を埋め尽くしていた工事用フェンスもすべてとり外され、同12月7日には晴れて“東京駅丸の内駅前広場”が完成、一般公開に至った。皇居から駅前広場までを結ぶ行幸通り(都道第404号線)の景観が、整然と並木に挟まれた美しい道路として、ルネッサンスのごとく再生されたのである。

画像: レンガ造りの建物「東京ステーションホテル」がライティングされて夜空に映える

レンガ造りの建物「東京ステーションホテル」がライティングされて夜空に映える

 2017年12月1日、「東京ステーションホテル」に居合わせた私は幸運なことに、模擬練習として東京駅を出発し、皇居に向かう格式ある馬車列をこのホテルの窓から観ることとなった。「信任状捧呈(ほうてい)式」という式典に臨む外国大使が乗り、皇居へと向かうための練習の様子だったが、あまりに神々しく伝統的な馬車列に、息を止めて見入ってしまったほどである。後日のテレビニュースでは、いずれかの国の新大使就任を受けて、本番の馬車列が皇居に向かう厳かな姿が映されていた。

画像: 居心地のよさが人気で満席が続くラウンジ。外の雑踏を感じさせない、静かで清楚な印象

居心地のよさが人気で満席が続くラウンジ。外の雑踏を感じさせない、静かで清楚な印象

 何度訪れても、再開業を遂げたこのホテルの姿は優美で美しい。多くの外国人観光客らが、駅舎でもあるホテルに向かってカメラを向ける姿を見て誇らしく思うのは私だけではないだろう。2014年に東京駅は100周年を迎え、次ぐ翌年の2015年には「東京ステーションホテル」が100年の節目を迎えた。

画像: 南北ドームに沿って作られたドームサイドの客室。 窓からは駅構内を行き交う人の姿が見える。天井高4mのゆったりした空間が人気

南北ドームに沿って作られたドームサイドの客室。
窓からは駅構内を行き交う人の姿が見える。天井高4mのゆったりした空間が人気

画像: 駅舎尖塔の最上階にあるスイートルームのひとつ。スイートは広さ72㎡以上。上質なインテリアやファブリックに高級感がただよう

駅舎尖塔の最上階にあるスイートルームのひとつ。スイートは広さ72㎡以上。上質なインテリアやファブリックに高級感がただよう

 かつてこのホテルを定宿としていた文豪たちは、お気に入りの部屋に長逗留し、東京駅を起点に日本全国とつながる列車の旅ロマンを背景に小説を書き綴った。事実、江戸川乱歩は推理小説『怪人二十面相』で名探偵明智小五郎と怪人が駆け引きする場面をこのホテルの一室を舞台に描き、松本清張もたびたび滞在した客室からプラットホームを観ながら小説『点と線』の着想に至ったといわれる。好んで滞在した部屋近くの廊下には、氏の綴った小説の連載ページ・第一回の複製と、舞台となった特急「あさかぜ号」の時刻表の複製が飾られている。

画像: 当時の斬新なエレベーターが時代を象徴する、印象的なロビー写真

当時の斬新なエレベーターが時代を象徴する、印象的なロビー写真

 いまどきの都心のホテルとしては稀な低層階であることから、横に伸びる棟の廊下は長いところで200mもあるという。また復原されたドーム内には8方位の干支のレリーフも美しくよみがえり、駅を往来する人々の目にも触れている。客室に置かれるメモパッドが原稿用紙のマス目模様入りだったりと、随所に駅や小説家という隠れたキーワードが演出されているのも心にくい。

画像: 歩いていると、文豪になったかのようにストーリーが浮かびそう。長い廊下はこのホテルならでは

歩いていると、文豪になったかのようにストーリーが浮かびそう。長い廊下はこのホテルならでは

 創業以来、愛され続けてきた美食や、人気バーテンダーのいるバーの存在も欠かせない。ホテル公式サイトには、「語り継がれる二人の総支配人」という見出しの実話が掲載され、今日のホテルの礎となった三代目総支配人の五百木(いおき)竹四郎氏と、1923年に東京鉄道ホテルと改名した際の初代総支配人、剣持確麿氏が紹介されている。

 中でも、元精養軒の料理長であった五百木が生み出した「ビーフシチュー」は、2012年のホテル再開業時、レシピを現代風にアレンジして再登場させたこだわりの逸品だ。かつてグルメが通ったメインダイニング「ばら」は、現在はフランス料理の「ブラン ルージュ」として、気鋭の総料理長、石原雅弘氏が腕を振るう。

画像: プライベートな空間のアトリウムは、宿泊客専用の朝食会場となる「ゲストラウンジ」 PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE TOKYO STAITON HOTEL

プライベートな空間のアトリウムは、宿泊客専用の朝食会場となる「ゲストラウンジ」
PHOTOGRAPHS: COURTESY OF THE TOKYO STAITON HOTEL

 次なる100年を歩み始めた駅舎とともに、新たなるホテル物語は今も続編が進行中である。

東京ステーションホテル(THE TOKYO STAITON HOTEL)

住所:東京都千代田区丸の内1-9-1 JR東京駅丸の内南口直結
予約電話: 03(5220)1112 
客室:全150室
料金:¥38,232~
(1泊1室2名の料金。消費税・サービス料・宿泊税込み) 
 ※日によって料金が異なるため、要問合わせ
公式サイト

せきね きょうこ
ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、ホテルの表裏一体の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および 関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている
www.kyokosekine.com

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