東京ドームで知られた水道橋駅を挟み、ドームとは反対側の静かな地区に、世界中からのゲストをもてなすホテルがある。華やかさとは無縁の静けさの中、くだんの「庭のホテル 東京」はキラリと光る存在感を堅持している。



緑がホテルを包み込むようなホテルの瀟洒(しょうしゃ)な表玄関



エントランスへ向かう小道からロビーを望む



 開業当初、まだ弱々しさの残る若木だった植栽は、8年を過ぎた今、堂々たる木々に成長しホテルを包み込んでいる。その瑞々しい緑に囲まれた玄関を入ると、吹き抜けのロビーには和紙で作られた巨大な行灯型のライティングがそびえ立ち、美しくも日本的な優しい光を放っている。ここは‘江戸の美学’を意識して生まれた、東京ならではの和のホテルである。館内には、江戸の文化や芸術性、江戸っ子気質を感じる軽やかなサービス、京都の"雅"とはまた違う切れ味のいい江戸の美意識が漂っている。



ロビーの様子。

左は伝統の行灯を彷彿とさせる和紙のライティング



中庭は緑の小さな森のよう。

小鳥もやってくる自然の木々が育つ



 そんなホテルの感性を最も早く察知した外国人観光客が、滞在したうえでの心地よさや魅力を口コミで広げ、徐々に欧米やアジアからの個人客を増やすこととなった。今やホテルゲストの6割近くが外国人客であり、彼らの中にはリピーターも多くいるというから、世界の情報発信網、ネット社会のすごさを改めて感じる。



 ホテル開業は2009年のこと。ミシュランガイドのホテル部門では、"快適なホテル"として開業以来、8年連続2パビリオンに輝いているほか、オーナーであり総支配人でもある木下彩氏は、日本ホテル産業教育者グループ選考による第9回「ホテリエ・オブ・ザ・イヤー2012」も受賞。奇をてらわずにこなすこまやかな対応、ほかとは明らかに違う固有のコンセプトを貫く姿、そして重要な着地点である"唯一無二の存在感"が、訪れた人を魅了しているに違いない。



写真はコンフォートルーム。

客室は和の意匠がそれぞれ異なる5タイプ。

窓からは障子を通して日本的な柔らかい日差しが入る。

お茶セットは日本茶、南部鉄器の急須を用意



パブリックスペースのリフレッシュラウンジ。

宿泊ゲストのためのマッサージチェアやコインランドリーなどを備え、

外には緑あふれる空中庭園が広がる

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF HOTEL NIWA TOKYO



 魅力のひとつには、ホテル周辺とのご近所づきあいも。アクティビティとして提供されているプランは、そのご近所を巻き込むものが多く面白い。伝統芸能、サブカルチャーなど、水道橋、お茶の水、神田など、江戸から今に伝わる新旧の文化や歴史を楽しく学び体験する「三崎町サロン」を開催し、こちらは年齢を問わず日本人女性のリピーターを惹きつけている。ライフスタイルを豊かにする「きれい講座」、旬の食材にこだわる「美味講座」、さらにミニシアターの元祖として知られる岩波ホールとのコラボによる、映画とホテルのグリル&バー「流(りゅう)」のランチを楽しむ会も大人気だ。江戸から残る周辺の文化史跡を訪ね歩く「江戸まち歩き」など、庭のホテルはこうした地元密着型活動を活発に行っている。






 ホテルというものは、地域を巻き込み、地元に愛されなければ、未来はない。遠慮とおせっかいのサービスバランス、言葉少なにひたすら旬の美味なる逸品を提供する和食の料理長、こだわりの野菜に固有のメニューが並ぶ洋食レストラン。東京ならではの"粋"を感じる快適なホテルは、小さくてもきらりと光っている。




庭のホテル 東京(HOTEL NIWA TOKYO)


住所:東京都千代田区三崎町1-1-16

予約電話:03(3293)2228(10:00~20:00)

客室:全238室

(スタンダード、スーペリアツイン、スーペリアダブル、コンフォート、プレミアムの全5タイプ)

料金:¥13,000~(スタンダード1室1名利用の1泊料金。消費税・サービス料込)

お問い合せ:03(3293)0028(代表)

公式サイト




せきね きょうこ

ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、“ホテル”の表裏一帯の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および 関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている。

http://www.kyokosekine.com/



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