「TRUNK(HOTEL)」には、書き尽くせぬ造り手の思いが宿っている。日本では“ソーシャライジング”という言葉がいまだ社会全般には浸透していないのを知りつつ、あえて主たるコンセプトとしてこの言葉を前面に打ち出した。ホテルのオーナーである代表取締役社長の野尻佳孝氏に、氏の哲学、ホテル造りへの熱い思いを聞いた。そこに見えてきたのは骨太の理念だった。



エントランスを入るとそこは「TRUNK(LOUNGE)」

広々とした空間ではPCを広げる人、本を読む人、

おしゃべりをする人など、年齢層もタイプも違うゲストが集う



 20年前に創業したウェディング会社「テイクアンドギヴ・ニーズ」は、ハウスウェディング市場を国内で作り上げたイノベーターである。ウェディングの観点から、ホテル業にプロデューサーとして携わることもあったという野尻氏は、「東京には自分が泊まりたいと思う魅力的なホテルが少ない」という思いから、約4年の歳月をかけて「TRUNK(HOTEL)」のコンセプトやデザインなどを練り上げた。


 AIやデジタル化が急速に進む一方、ライフスタイルの本質を見極めようとする価値観が確実に潜在している今、人のつながりや絆の大切さがこれまでになく見直されている。こうした現実を見すえ、同氏は「ソーシャライジングという基本的価値をムーブメントに」と、その価値創造をホテルに託したのである。実際、ホスピタリティ&デザインを表彰する世界的賞のアジア部門において2013年「The New Concept of the Year」を受賞。そのほかにも「TRUNK(HOTEL)」はそのデザインやホテル造り、コンセプトで数々の世界的な評価を受けている。



テラスのような青空“ガーデン”は、滞在者、カフェ利用者のみならず、

ふらっとストアに買い物に訪れた人も利用する



 開業は2017年5月、都心においてわずか15室の贅沢なスペースでスタートした。ホテルが掲げるソーシャライジングのコンセプトは、ずばり「自分らしく、無理せず等身大で、社会的な目的を持って生活すること」と謳う。ホテルを通して社会貢献のイメージを変えること、日常生活の中で社会貢献をする機会をつくり、持続可能な社会を実現したいとの考えだ。



テラススイート<140㎡ + Terrace 70㎡>は

このホテル最大級のスイートルーム。

キッチン、大きなダイニングテーブル、ワインセラー、サンルームなど

贅沢な設備の整った、1~8名まで利用できる客室。

楕円形のテーブルは渋谷区の木“ケヤキ”製



ロフトのついたリビングスイート<55㎡>。

天井吊りのプロジェクターが備わり、スポーツ観戦や映画も迫力満点。

バーカウンターの奥に見えるのがベッドルーム



3R(リデュース、リサイクル、リユース)を掲げ、

間伐材や古材の使用、エコ製品が多用されたアメニティ。

ハンガー(左)は鉄のリサイクル品、

革製品の端材を利用したティッシュケース(右)、コースターもリユース



 館内にいると、まるでNYのブティックホテルにいるような感覚に陥る。「ラグジュアリーの定義が変わっている」と語る野尻氏は、「豪華なインテリアやうやうやしい接客を望むお客さまもいる一方、現代的なデザイン性の高さやフレンドリーな接客を求める声もあり、要はお客様に合わせたカスタマイズだと思う。そのために、スタッフにはマニュアルを作らず臨機応変に、TRUNKらしいgood tasteで対応することを大切にしています」と明快に分析する。ゲストとのあいだに、セオリーどおりではない、いい意味での化学反応が起きるもてなしをと願っているのだ。



選りすぐりのヘルシーでオーガニックなアイテムが並ぶ

ホテル敷地内のコンビニエンスストア。

おにぎりやクッキー、煎餅などもおいしい

PHOTOGRAPHS: COURTESY OF TRUNK(HOTEL)



 館内設備は充実しており、細部にまでこだわりがある。オーガニックや東京産の食材を用いて「東京らしさ」を提供するメインダイニング、渋谷のソウルフード「串焼き」の専門店、厳選したアイテム揃いで購買によって社会貢献ができるストア、さらに最上階にはウエディング・セレモニーやイベント利用のできるスタイリッシュなチャペルも造られた。そんな「TRUNK(HOTEL)」は、“誰かのために” “何かのために”なりたいという想いを強く発信している。ホテルの理念など知らずに滞在しても、感度の高い人はきっと何かを受けとり、人にも物にも優しいホテルであることに気づかされるだろう。




TRUNK(HOTEL)


住所:東京都渋谷区神宮前5-31

電話:03(5766)3210

客室:全15室

料金:¥27,000~(スタンダードルーム1名1泊料金。サービス料・税別) 

 ※日によって料金が異なるため、要問合わせ

公式サイト




せきね きょうこ

ホテルジャーナリスト。フランスで19世紀教会建築美術史を専攻した後、スイスの山岳リゾート地で観光案内所に勤務。在職中に住居として4ツ星ホテル生活を経験。以来、“ホテル”の表裏一帯の面白さに魅了され、フリー仏語通訳を経て、94年からジャーナリズムの世界へ。「ホテルマン、環境問題、スパ」の3テーマを中心に、世界各国でホテル、リゾート、旅館、および   関係者へのインタビューや取材にあたり、ホテル、スパなどの世界会議にも数多く招かれている。雑誌や新聞などで多数連載を持つかたわら、近年はビジネスホテルのプロデュースや旅館のアドバイザー、ホテルのコンサルタントなどにも活動の場を広げている。www.kyokosekine.com




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