おもちゃの粘土で再解釈された
10枚の歴史的写真

10 Classic Photographs —Reinterpreted Entirely in Play-Doh
リアルな写真の風景を、カラフルな粘土で作り変えてみせるエレノア・マクネア。写真家集団マグナム・フォト70周年を記念した新作について、自ら語った

BY HATTIE CRISELL, TRANSLATED BY G. KAZUO PEÑA(RENDEZVOUS)

 アーティストのエレノア・マクネアは、子ども用の粘土プレイ・ドーのスペシャリストだ。プレイ・ドーは、ふだん遊んでいる子どもたちにはなんの変哲もないおもちゃの粘土だが、彼女は「さまざまな色の粘土には、それぞれ違ったテクスチャーがある」と語る。たとえば「白い粘土はとても柔らかくて、黒いのは油っこいの」。マクネアにとって、プレイ・ドーは絵の具のパレットのようなものなのだ。彼女は、ドキュメンタリー写真として記録されたシーンを、自分の好みや解釈も加えながらプレイ・ドーで再現。それをカメラで撮影して作品化している。

画像: (写真左)エリオット・アーウィットの『エンパイア・ステート・ビル / ニューヨーク』(1955年) © ELLIOTT ERWITT/MAGNUM PHOTOS  (写真右)プレイ・ドーで表現されたエレノア・マクネアの作品。「オリジナルの写真は白黒。これを再現するのは難題だったわ。それに、私自身、白のプレイ・ドーをそんなに多く持っていなくて、しかもすぐ汚れてしまうから節約と工夫が必要だった。黒も限られた量しか持っていなかったし」とマクネア。「この作品が好きなのは、私も以前ニューヨークに住んでいたから。素敵な経験だったけれど、同時にとても孤独だった。アーヴィットのニューヨークを眺める女性はどこか寂しそう。そこが昔から好きなの」 © ELEANOR MACNAIR

(写真左)エリオット・アーウィットの『エンパイア・ステート・ビル / ニューヨーク』(1955年)
© ELLIOTT ERWITT/MAGNUM PHOTOS

(写真右)プレイ・ドーで表現されたエレノア・マクネアの作品。「オリジナルの写真は白黒。これを再現するのは難題だったわ。それに、私自身、白のプレイ・ドーをそんなに多く持っていなくて、しかもすぐ汚れてしまうから節約と工夫が必要だった。黒も限られた量しか持っていなかったし」とマクネア。「この作品が好きなのは、私も以前ニューヨークに住んでいたから。素敵な経験だったけれど、同時にとても孤独だった。アーヴィットのニューヨークを眺める女性はどこか寂しそう。そこが昔から好きなの」
© ELEANOR MACNAIR
 

 マクネアは4年前から、この方法で作品を制作してきた。2014年には作品集『Photographs Rendered In Play-Doh(プレイ・ドー粘土で表現された写真)』も出版。そしてこのほど、写真家集団マグナム・フォト70周年を記念した新シリーズを完成させた。エリオット・アーウィットが1955年に撮影した、エンパイア・ステート・ビルの前にぽつんと立つ人の写真。ニューシャ・タヴァコリアンが2011年に撮影した、海から現れるイラン人女性の写真―—こうした写真をマグナム・フォトの膨大なアーカイブからピックアップし、再解釈して作品化したものだ。これらは限定プリントとして販売もされている。

 カラフルで立体的、そしてオマージュの意味も込められている。そんな作品をマクネア自身とても気に入っており、その制作に没頭してきた。ひとつの作品を作り上げるのに7時間ほどかかるときもあるという。人物を再現するときは、まず裸の身体を作り、その上に洋服をかぶせていく。そうすることで人間味のある姿が表現できるという。「子どもの頃に遊んだ紙の着せ替え人形に、ちょっと似てるわね」とマクネア。彼女がプレイ・ドーの模型を作るのは、いつも深夜だ。寝ているあいだ布をかけておき、翌日、朝の光で写真を撮り始める。「本当に時間との戦いね。3、4時間も経たないうちに端の部分が乾燥して割れちゃうし、色も褪せはじめてしまうから」。マクネアは満足のいく写真が撮れると、すぐに作品を解体してしまう。次に使える粘土をキープし、再利用するためだ。

 このプロジェクトを通して、芸術を高尚なものではなく、より身近なものとして鑑賞者に感じてもらいたい、とマクネア。「じつは私自身、21、22歳になるまでアートギャラリーに行ったことがなかったの。アートの世界ってあまりにも敷居が高くて。その後、ギャラリーや美術館で働くようになったけれど、美術学校には行っていないし、いまだに自分の意見を言えるだけの知識を持ってないと感じることもあるわ。だからこういうかたちで、より多くの人たちに写真を鑑賞することを広め、『そうよ、あなたたちも写真に興味を持っていいのよ』と伝えたかったの」。プレイ・ドーが安く手に入ること、色が濃くて単純なこと、そして自分の作品が写真の完全なコピーではなく見た目に不完全であること、そのすべてが魅力だとも語る。

 マクネアは、写真の歴史について百科事典的な知識はあったが、作品制作を通して思いがけず「写真をまったく違った視点から見るようになった」と言う。「この写真はプレイ・ドーで再現できるか、それは作品として成立するか、という視点でね」

画像: マーティン・パーの作品集『The Last Resort(最後のリゾート)』から『ニュー・ブライトン』(1983-85年) © MARTIN PARR/MAGNUM PHOTOS

マーティン・パーの作品集『The Last Resort(最後のリゾート)』から『ニュー・ブライトン』(1983-85年)
© MARTIN PARR/MAGNUM PHOTOS
 

画像1: エレノア・マクネアによる作品 © ELEANOR MACNAIR

エレノア・マクネアによる作品
© ELEANOR MACNAIR
 

「時々、カメラ目線を作るために人形の頭を動かして位置を固定する作業も必要なの。よく人形の頭の下にプレイ・ドーの塊を入れているのはそのためよ」とマクネアは言う。「人形の視線がカメラとは違う方向にあると、作品のインパクトが薄れるから。その視線を作るために、いつも30〜40回くらいシャッターを切っている。マーティン・パーの写真を再現しようと思ったのは、そこにイギリス的なものを感じたから。私もイギリス人だから、こういうリゾート地の子どもの写真を見ると、自分の幼少期を思い出さずにはいられない。そんな”匂い”があるの。足についたアイスクリームを見て! まさにイギリス人の原風景的写真だわ」

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