彼が垣間見せた素顔は機知に富み、ひと癖もふた癖もあり、心を打つ情感をたたえていた。それは彼が写し出す世界にぴったりと重なっていた

BY AUGUSTEN BURROUGHS, TRANSLATED BY JUNKO HIGASHINO

画像: ウィリアム・エグルストン PORTRAIT BY WOLFGANG TILLMANS

ウィリアム・エグルストン
PORTRAIT BY WOLFGANG TILLMANS

 テネシー州メンフィスにあるエグルストン・アーティスティック・トラスト・ビルに着いたのは、じっとりとうだるように暑い午後1時すぎだった。入り口で僕を迎えてくれたのは、フォトグラファー、ウィリアム・エグルストンの息子、カリスマ性をたたえたウィンストンだ。彼はこのトラストのディレクターであり、公認のアーキビスト(作品の保存管理者)である。ウィンストンは僕を、涼しくて薄暗い後方のオフィスに通してくれた。オフィスの真ん中には、どっしりとしたふたつの机が向かい合わせに並び、そのひとつに彼の父親が座っていた。壁には大きな写真のコンタクトシートが古いコーラの看板と並んで掛けられ、電飾のついたジュークボックスがミッドセンチュリーの赤いソファ近くの隅に飾られていた。

 77歳になるエグルストンは、ひねりの利いたユーモアと不思議な魅力、ひと筋縄ではいかない複雑さ、人を惹きつける個性を同量ずつ混ぜ合わせたような人物だ。彼こそは、伝説、あるいはアイコンと呼ばれてきたフォトグラファーだ。1976年にニューヨーク近代美術館でセンセーショナルな個展を開いて以来、“カラー写真の先駆者”と言われることが多いけれど、当時、この個展はひどい酷評を受けていた。「批評家とかそういう類いの人たちは、ろくに作品すら見ていなかった。だから批判なんて気にしなかったし、彼らのことなんて笑い飛ばしていたよ」と当時を振り返る。

 エグルストンは“彼の定番スタイル”を完璧に着こなしていた。ロンドンのサヴィル・ロウ(名門紳士服店が集まる通り)で仕立てたというダークスーツに、ピカピカに磨いたブラックシューズ、白いシャツ、蝶型に結ばずに垂らしたボウタイまで隙がない。バーボンウィスキーとボディローションのような香りを漂わせ、手もとには分針が2分遅れたカルティエの腕時計をつけている。僕が写真について話をしたいと切り出すと、彼は目を閉じ「それは厄介だな」と答えた。「言葉と写真ーこのふたつは種類の違う動物みたいにそりが合わないから」。彼はささやくように言葉を発する。アメリカ南部訛りのゆったりした粋な口調が、くぐもった声のせいでさらにやわらいで聞こえた。

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