写真、建築、舞台美術と、杉本博司の創作の領域は幅広い。人々をつねに驚かせる、多岐にわたる活動の背景には 「時間」をどうとらえるかという追求があった

BY YOSHIO SUZUKI, EDITED BY JUN ISHIDA

画像: 〈海景〉シリーズは世界各地の海を同じ構図でとらえる。空と海と水平線、この一瞬に永遠を思わせる 《Bay of Sagami, Atami》1997 ©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

〈海景〉シリーズは世界各地の海を同じ構図でとらえる。空と海と水平線、この一瞬に永遠を思わせる
《Bay of Sagami, Atami》1997
©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF GALLERY KOYANAGI

 21世紀に入ったその年に起こった悪夢であり、杉本の活動拠点で起こった9.11(アメリカ同時多発テロ)。その直後の厳重な警戒が続くニューヨークのチェルシー地区で、能の公演のプロデュースを行なった。仮設の能舞台自体、杉本の設計である。続く2002年、香川県・直島にある護王神社の改装を行なった。その際、日本の古代文明と神道に対し大胆な仮説を立て、神社建築の真下に石室を設置した。以後、活動の大きな柱の一つになる建築作品の第一号だ。

 2003年、東京大学総合研究博物館所蔵の数理模型を撮影したことがきっかけで、数次関数の数式から制作した立体作品を発表した。2013年には文楽の構成、演出を手がけて、伝統の世界に斬新な風を送り込んだ。

 21世紀、杉本の肩書は写真家ではなくなり、現代美術家となった。ときにこれに建築家も加わる。

画像: 『神かみひそみいき秘域 その弐』のワンシーン。野村萬斎による「三さんばそう番叟」(古来の祝禱芸能のひとつ)を、 杉本博司作品〈放電場〉を使った舞台演出で見る。ニューヨークのグッゲンハイム美術館で行われた公演の日本凱旋プログラムで、小田原文化財団の活動のひとつでもある 2013年 渋谷〈さくらホール〉 ©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF OADAWARA ART FOUNDATION

『神かみひそみいき秘域 その弐』のワンシーン。野村萬斎による「三さんばそう番叟」(古来の祝禱芸能のひとつ)を、 杉本博司作品〈放電場〉を使った舞台演出で見る。ニューヨークのグッゲンハイム美術館で行われた公演の日本凱旋プログラムで、小田原文化財団の活動のひとつでもある
2013年 渋谷〈さくらホール〉
©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF OADAWARA ART FOUNDATION

 杉本が追い続ける「時間」という大きなテーマ。それをこれからの杉本の活動予定に照らし合わせて見ていきたい。東京都写真美術館が今年9月にリニューアルオープンするが、リニューアル後、第一弾の展覧会が『杉本博司 ロスト・ヒューマン展』(9月3日〈土〉~11月13日〈日〉/東京都写真美術館)だ。

 展示の柱は〈ロスト・ヒューマン〉〈廃墟劇場〉〈仏の海〉の3つである。〈ロスト・ヒューマン〉は2014年にパリのパレ・ド・トーキョーで発表した。比較宗教学者、宇宙物理学者など33の視点から、文明の終わり、人類の絶滅を、杉本が記述した文章をもとに自身の作品や見つけてきた遺物、古美術、古雑貨などを使いインスタレーションした。それぞれ職業や人格の異なる立場からの見地。共通しているのは文章の書き出しが「今日世界は死んだ。もしかすると昨日かもしれない…」であること。これはもちろん、アルベール・カミュ『異邦人』の冒頭〈きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かもしれない〉を意識している。パリに続き、東京では どのような味つけがされるのか楽しみである。

 時間の蓄積が歴史になる。歴史についてはこれまでもさまざまに考察し、作品に採り入れてきた杉本だが、そのひとつ、京都の蓮華王院(通称、三十三間堂)の千躰の千手観音立像を48枚のカットに分割して撮影した〈仏の海〉の大判(119.4×149.2㎝)プリントで展示室を構成する。モノクロームで撮影され、精緻なプリントで仕上げられた、一見似ていて全部が異なるカットを繰り返し見ていくうちにトリップ感が高まり、時間を 超越した浄土の世界に誘われるようである。そしてもうひとつ、この展覧会が世界初公開になる〈廃墟劇場〉については前述のとおりだ。

 

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