写真、建築、舞台美術と、杉本博司の創作の領域は幅広い。人々をつねに驚かせる、多岐にわたる活動の背景には 「時間」をどうとらえるかという追求があった

BY YOSHIO SUZUKI, EDITED BY JUN ISHIDA

時間を操る感覚をもつと
もっとも古いものがもっとも新しいものに
変わる。それが創作の根本にある

『杉本文楽 曾根崎心中』『春の便り~能「巣鴨塚」より~』など、古典芸能をもとに今までにない演劇を発表してきた杉本が今取り組んでいる作品が興味深い。

 ジャン・コクトーの代表作で1930年にコメディ・フランセーズで初演されて以来、世界各国で上演されてきた一人芝居『声』を下敷きにし、設定を日本の昭和初期に置き換えるという。脚本は小説家の平野啓一郎、主演は寺島しのぶ、音楽を担当するのは世界的な舞台で活躍するヴァイオリニストの庄司紗矢香だ。杉本は解説する。「ジャン・コクトーの代表作で、電話のこちら側に女がいて、向こうに男。それを一人芝居で演じる。何度も上演されているので大幅に翻案して、平野啓一郎さんと脚本を練りました。日本の戦前、1930年代のモダンガールが電話で男に別れ話を切り出されるという設定です。実在した女性をモデルにしました。とある裕福な文化人のお妾さんで趣味はフェンシングと水泳。堀口捨己(ほりぐち すてみ)に設計させたモダニズム建築に住んでいた若狭(わかさ)という人がモデルです。だから舞台にはプールの見えるモダンなお屋敷を造っておいて、そこに電話がかかってきて……」

 11月25日(金)、26日(土)、27日(日)( 4公演予定)に草月ホールで上演される。時間と空間を変換する遊び、そのうえで杉本と平野がどう展開してくれるか。さらにモダン建築に精通した杉本が舞台上にどんな空間を創り出すのかも見ものである。

画像: 「江之浦測候所模型」。みかん山の斜面が敷地である。高いところに長く伸びるのは100メートルギャラリー。 その下に斜めに交差するのが冬至の日にのみまっすぐ光が差し込む70メートルの隧道だ ©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF OADAWARA ART FOUNDATION

「江之浦測候所模型」。みかん山の斜面が敷地である。高いところに長く伸びるのは100メートルギャラリー。
その下に斜めに交差するのが冬至の日にのみまっすぐ光が差し込む70メートルの隧道だ
©HIROSHI SUGIMOTO/COURTESY OF OADAWARA ART FOUNDATION

スギモトランドただいま建設中

 東京とニューヨークを行き来し、最近ではバルセロナやモスクワ、京都で展覧会を開催するなど多忙を極める杉本だが、それだけではない。小田原で進めている建設工事が目下の最大のプロジェクトである。

 敷地の中にはふたつの能舞台や円形劇場があり、さまざまな公演を行うことができ、作品展示のための100メートルのギャラリー、天体観測のための70メートルのトンネルをもつ。それらすべての設計は杉本と建築家の榊田倫之(さかきだ ともゆき)が主宰する新素材研究所による。しかもそれぞれの建築物は天体の運行を考え尽くし、春分秋分、夏至冬至には特徴を見せることになる。「能舞台の橋掛かりには春分の日、秋分の日にまっすぐに日が差し込みます。能は語り手が日の出とともに去っていくわけですから、その後ろ姿に朝日が差して、後シテは霊界に戻っていく、と。冬至の日は海から日が昇り、隧道(ずいどう)をまっすぐに貫き、円形劇場の広場に光が差します。ここはその一日のためだけにあるといってもいい。つまり、これまでやってきた古美術や現代美術の展示、演劇の公演、建築設計、そして古代の人々が行なっていたであろう天体運行と信仰のあり方、そして儀式を追想する施設です。地名から、江之浦測候所と名付けました」

 

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