キアヌ・リーブスは今、アートブックの制作という価値のある冒険をしている。それはハリウッドスターのよくあるお遊びとは一線を画す、純粋で生真面目な“課外活動”だ

BY MAX LAKIN, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

『Shadows』は、ロサンゼルスの旧アクメギャラリーを皮切りに、企画展として各地のアートギャラリーで公開され、昨年はパリの「フォト・サンジェルマン」にも出展された。この作品がきっかけで、キアヌとアレクサンドラは、出版社だからこそできる実験的な取り組みを模索し始めた。「X Artists’ Books」が誕生した背景には、私たちのプロジェクトは将来パフォーマンスやエキシビションに発展しうる、という思いもあったのです」とアレクサンドラは話す。このセオリーが通用するかどうかを試したのが、『The Words of Others』を全訳するプロジェクトだった。アルゼンチン人アーティストのレオン・フェラーリが、ベトナム戦争と米国の帝国主義的政治を糾弾した論文(1967年発表)のすべてが、初めて英語に翻訳された。昨年には、ロサンゼルスのレッドキャット・シアターで、7時間におよぶ朗読が繰り広げられた。

 ふたりは最近、『(Zus)』というタイトルの本を出版した。フランス人写真家のブノワ・フジュロールのビジュアルエッセイと、ジャン=クリストフ・バイイの文章で綴られたこの作品は、パリのバンリュー(郊外)に広がる11の「傷つきやすい都市的地域」をテーマに構成されている。ブルータリズム建築で支配された都市周辺部は、現実としても、構想としても失敗に終わったのだと、作品を通じて訴えているのだ。キアヌは親族の友人を通じてフジュロールと出会い、出版社を始める前からこの作品の制作に関わってきた。航空写真の撮影に必要なヘリコプターを手配したり、治安の悪い地域を訪れるときにボディガードを雇ったりするなど、金銭的な支援を買って出た。

画像: 上から時計回りに『High Winds』(シルヴァン・オズワルド&ジェシカ・フレイシュマン)、『(Zus)』ブノワ・フジュロール&ジャン=クリストフ・バイイ)、『The Artists’ Prison』(アレクサンドラ・グラント&イヴ・ウッド) PHOTOGRAPH BY JOSHUA SCOTT

上から時計回りに『High Winds』(シルヴァン・オズワルド&ジェシカ・フレイシュマン)、『(Zus)』ブノワ・フジュロール&ジャン=クリストフ・バイイ)、『The Artists’ Prison』(アレクサンドラ・グラント&イヴ・ウッド)
PHOTOGRAPH BY JOSHUA SCOTT

 しかしキアヌは、X Artists’ Booksの単なる金脈ではない。何を出版するかなど、ビジネスに関わることはほぼすべて、彼がアレクサンドラと相談して決めている。ふたりは作品の持ち込みを受けつけないし、エージェントとも仕事をしない。そのかわり、コンセプトが難解すぎて出版不可能と思われるような「秘密の本」(彼女はそう表現する)を発掘して世に送り出すことに、やりがいを感じているのだ。ふたりが手がけたタイトルは、ロサンゼルスの「アザーワイルド」やニューヨークの「プリンテッド・マター」、パリの「イヴォン・ランベール」のようなアート専門の書店に置いてあるほか、オンライン購読(最初の4タイトルは130ドル。新たに5点が制作中)というかたちでも提供している。

 あらゆる意味で、シュタイデルと協働した経験にインスパイアされたビジネスモデルではあるが、X Artists’ Booksはロサンゼルスが生んだ出版社であり、彼らが作るアートブックは、自費出版で安価なアートブックを制作したエド・ルシェや、社会の周縁部のなかでもより風変わりな領域を好んで描いたマイク・ケリーなど、ロサンゼルスで活躍した現代美術家の精神を受け継いでいる(X Artistsの「X」は、アーティスト全体を指しているものの、「秘蔵作品、未知の領域、無限世界の中心」という意味も込められている、と同社のウェブサイトに書いてある)。『(Zus)』の通常版については、フランスのレンヌに共同で所有する印刷所に任せたが、併せて限定版アートプリントも作成した。これらは、ポンピドゥーセンターやフランス国立図書館が、すでに所蔵作品として購入している。「どこで印刷するか、どのクォリティの紙を使うか、どんな肌ざわりを求めるかは、ぼくらにとって重要なんだ」とキアヌは言う。

 私たちの世代でもっとも成功を収めたハリウッドスターのひとりが、レアな美術作品をプロデュースする零細出版社を営んでいるなんて、どことなく滑稽に聞こえるかもしれない。だが、キアヌが紙の在庫や海外の流通に関する複雑な事情について語るのを聞けば、そんな印象は払拭されるだろう。痛々しいほどに真摯で生真面目な彼は、質問されるとしばらく考え込んでしまうことが多い。「(レアな)アーティストの作品をどうやって世に送り出すか−−。そこが難しいところなんだ」とキアヌは言う。「ベストを尽くすのが、出版社としてのぼくらの責任だよ」
「ほかに言いたいことはあるかって?」。キアヌはそう尋ねたあと、すぐには言葉を発しなかった。「ぼくはただ、面白い本が好きでたまらないんだ」

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