キアヌ・リーブスは今、アートブックの制作という価値のある冒険をしている。それはハリウッドスターのよくあるお遊びとは一線を画す、純粋で生真面目な“課外活動”だ

BY MAX LAKIN, TRANSLATED BY MAKIKO HARAGA

 キアヌ・リーブスといえば、これまでの当たり役のイメージが記憶に焼きついているだろう。『ハートブルー』(1991年)では、ストイックなFBI覆面捜査官。『マトリックス』(1999年〜)シリーズでは、お告げに導かれて暗黒の未来社会と戦うストイックな救世主。『地球が静止する日』(2008年)では、未知の惑星からやってきたストイックな使者を演じた。そんな彼が「アート系出版社のストイックな創業者」であると聞いても、あまりピンとこないだろうが、これもまた最近、彼の代名詞になっている。昨年の夏以来、キアヌがビジュアルアーティストのアレクサンドラ・グラントとともにロサンゼルスで立ち上げた小さな出版社「X Artists’ Books」は、精力的に作品を世に送り続けている。どのタイトルも、決して大手出版社が手を出さない、マニアックなものだ。

画像: キアヌと共同経営者がオフィスとして使っているシェアスペース「NeueHouse」にて PORTRAIT BY PHILIP CHEUNG ほかの写真をみる

キアヌと共同経営者がオフィスとして使っているシェアスペース「NeueHouse」にて
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 2009年にパーティの席で出会ってまもなく、ふたりは一作目となる本のコラボレーションにとりかかった。アレクサンドラ(45歳)の創作テーマは言語的連想で、彼女は文章を下敷きにして絵を描く。このときは、キアヌ(53歳)が書いたどこか陰鬱さがにじむ詩にインスパイアされ、水墨画のようなタッチの作品を描きあげた。この本は『Ode to Happiness(幸福への叙情詩)』と名付けられ、高名なドイツの出版社「シュタイデル」から発売された。「“自分が嫌い”という名のフェイスクリーム」「“また独りぼっち”という名のシルクパジャマ」などキアヌが綴った言葉と、アレクサンドラのイラストの合作は、不機嫌な自分をネタにしたおちゃめな「セルフケア本」といったところで、どことなくモーリス・センダック(『かいじゅうたちのいるところ』で知られる絵本作家)を彷彿させる。それから数年後、ふたりは『Shadows(人影)』で再びシュタイデルと組んだ。この作品では、喪失、世のはかなさ、受容について瞑想を巡らすキアヌ自身のシルエットに、色彩を重ねている(ただし、重いテーマとは裏腹に作品自体は軽やかだ)。

 ハリウッドには、俳優たちが虚栄心を満たすためのプロジェクトや奇想天外なお遊びーーグルメバーガーショップ、手造りテキーラ、カルト的なライフスタイルビジネス(ネズミ講の場合もある)などーーが掃いて捨てるほどある。だが、キアヌの“課外活動”は、もっと彼自身の人となりを反映している。たとえば、1990年代に活動していたオルタナティブロックバンド「ドッグスター」に、ベースやバックコーラスで参加しているし、カリフォルニアでオートバイの製造会社「アーチ」を共同で設立したこともある。いずれも彼自身が心底やりたかったことであり、そこにはなんの計算もはたらいていない。俳優業から距離をおくという感覚とも違うのだ。これらの活動を振り返ると、彼は単にモノを創ることだけではなく、創造のプロセス自体にも、純粋な好奇心を抱いていることがわかる(アートブックの制作も例外ではない)。「すでに世の中にあるものを焼き直しするなんて、ごめんだね」とキアヌは言う。「ぼくらは、クォリティの高い本を作るという確固たる野心をもっているんだ」

 1980年代半ばに俳優としてデビューして以来、キアヌが演じた数々のキャラクターは米国のポップカルチャーに多大な影響を与えてきたが、本人の生きざまはおよそセレブリティとは言いがたい。世を悲観する菩薩のように口を閉ざした、不機嫌そうな様子と相まって、彼のパブリックイメージはここ何年ものあいだ、出演した作品よりも、世間のたくましい想像力によって形作られてきた。いや、それよりもむしろ、彼の人間性や個性が、はまりこんだ深淵から抜け出せなくなってしまった、ということなのかもしれない。『Ode to Happiness』も『Shadows』も、そのコンセプトは2010年に「かわいそうなキアヌ」旋風を巻き起こしたあの写真ーーニューヨークの公園でひとりベンチに腰掛け、物憂げにサンドイッチを見つめる姿ーーがもとになっているような気がする。

 

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