国内外を巡回する写真展『写真力』は現在までに31か所の美術館で開かれ、約100万人を動員。いまもなお写真界の第一線を走る篠山紀信が、新作の制作および披露の場に選んだのは、建築家、安藤忠雄が作った小さな美術館だ

BY MASANOBU MATSUMOTO

画像: 『光の情事』展のキービジュアル。このカットのみカラーで撮影された。右奥に見えるのが《光の美術館》 ©KISHIN SHINOYAMA

『光の情事』展のキービジュアル。このカットのみカラーで撮影された。右奥に見えるのが《光の美術館》
©KISHIN SHINOYAMA

 山梨県の山中、北に八ヶ岳を眺める清春芸術村の敷地内に、建築家、安藤忠雄が設計した《光の美術館》がある。安藤らしいコンクリート打ちっ放しの建築物で、人工的な照明器具が設置されておらず、灯は、天井と壁のスリット状のガラス窓から入る太陽光だけ。時間や天候などによる自然光の変化に合わせて、展示スペースも刻一刻と変わっていくという、異質な美術館だ。

 去る7月、写真家、篠山紀信は、この《光の美術館》にモデルやマネキンを配置し、撮影を実施。そして、この冬、同美術館で『光の情事』と題した展覧会を開き、その新作シリーズを発表した。

「写真と光はきってもきれないもの。光を、機敏に感じ取るのが写真家なんですよ」と篠山は話す。そして、この美術館がいかに撮影場所として魅力的だったかを述べた。「空間としてはとても小さいですが、“密度”というか緊張感がある。無駄がなく、“ダレ”ている場所がない。そして、その空間に入ってくるスリットからの自然光が、情事的というか、怪しい色気のようなものを感じさせる、不思議な建物です」。篠山の言葉を借りれば、その光と空間の“エロティックな関係”に、被写体や撮影者である篠山も交わっていく。『光の情事』というタイトルはその意味だと言う。

画像: 篠山紀信の新作。背景に映るのは、この《光の美術館》に常設展示されている、スペインの画家アントニ・クラーベの絵画作品。安藤は、クラーベのアトリエにインスパイアされ、この美術館を設計している ©KISHIN SHINOYAMA

篠山紀信の新作。背景に映るのは、この《光の美術館》に常設展示されている、スペインの画家アントニ・クラーベの絵画作品。安藤は、クラーベのアトリエにインスパイアされ、この美術館を設計している
©KISHIN SHINOYAMA

 この日、篠山は展示された作品を前に、自ら今回の制作を振り返って解説をしてくれた。撮影時の光は強く、鋭利的だったこと。それが際立つようにモノクロームで撮影したこと。そしてコントラストを強めたプリントで仕上げたことなど。「もし曇天だったら、違った作品になったかもしれませんね。私はいつもそうなんだけど、訪れた時の場所の様子を感じながら撮影していく。事前にロケーションのチェックもしないし、天気待ちもしない。(篠山は数えきれないほどの作品を残しているが)そんなことしていたら、こんなにたくさん写真は撮れませんよ(笑)」

 写真は“一期一会”であり、この安藤建築の、その日、そのときの光との出会いを大切したのだとも話す。そんな解説の最中も、篠山は美術館に入る光の変化に気づき、「ほら、この空間のなかで光がどんどん動いていく」と周囲に目を配る。そして、以前、篠山が『古寺巡礼』シリーズなどで知られる写真家、土門拳と対談したときのエピソードを話した。「対談の最中、土門さんがこう言うんです。“篠山くん、仏像は走っているんだよ”って」。寺院内への自然光の入り具合によって、仏像の表情が変わって見える。静物である仏像を時間軸のなかで捉え、美しさや尊さ、生命力を見出す写真家ならではの言葉だ。「その意味で言えば、この空間にも光が走っている。しかも超特急で!」

画像: 篠山紀信と新作シリーズの被写体のひとりであるAI PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

篠山紀信と新作シリーズの被写体のひとりであるAI
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 今回の撮影で、篠山が企てたことのひとつは、ストロボなど人工的なライトを使わずに作品を撮ることだ。「レフ板で反射光を採りましたが、自然光だけ。だって安藤さんはそれを計算してこの建物を設計しているのだから」。そして、改めて展示された写真を見ながら、「それでもこれほどの写真が撮れてしまうのだから、やはり“才能があるな”って思ってしまいますよね」と笑う。

 篠山が才能があると言ったのは、おそらく篠山紀信本人と安藤忠雄の両方のこと。安藤の建築が作る光が篠山を触発し、篠山はその光を独自のイメージに作り変える。ふたりの光に対する豊かな感性が、ここに並ぶ写真作品に織り混ざってみえる。

『光の情事』──篠山紀信
会期:〜2017年1月27日(木)
会場:光の美術館
住所:山梨県北杜市長坂町中丸2072 清春芸術村
開館時間:10:00〜17:00
休館日:年末年始、月曜
入場料:一般 ¥1,500、大学・高校生¥1,000、以下無料
公式サイト

 

This article is a sponsored article by
''.