NASA印の手びねり茶碗や電動モーター付きの茶筅ーー。美術家トム・サックスは、D.I.Yでつくった茶道具や茶室、茶庭を展示し、美術館を“茶事の空間”に変えてみせた。そこに見るサックス流の“茶のこころ”、そして“アートのこころ”

BY MASANOBU MATSUMOTO

 トム・サックスは、日用品や工業用品などの既製品を“ブリコラージュ”(素材を寄せ集め、本来の用途とは異なる新しいものを生み出す手法)して、アイコニックな彫刻をつくる。たとえば、電話帳とダクトテープを用いたデザイナーズ家具のレプリカ。エルメスやプラダなどハイブランドのロゴ入り包装紙を素材にした便器やギロチン台、マクドナルドのバリューセットの模型。ネットオークションで落札した中古品やハイテク素材を組み合わせ、ラジカセや宇宙船も模造する。

 こうしたマス・プロダクトや近・現代の文化的シンボルをモチーフにした彫刻は、資本主義や大衆消費社会へのアイロニーとも読みとれるだろう。だが、彼の本当の独創性は、オタクのような“D.I.Y愛”にある。思いもよらぬ素材をリミックスし、意図的に手作業の跡を残したサックスの作品は、小難しい記号的なゲームがわからなくても、素直に“モノとしての面白さ”を感じさせる。なかにはナンセンスな機能性を搭載したもの(サックス自作のエセ宇宙服は、一応、冷却機能も付いている)もあり、観る者をクスりと笑わせる力がある。

画像: (左から) 《PAM》 2013年 ©TOM SACHS, COURTESY OF TOMIO KOYAMA GALLERY 《CHASEN》 2015年 ©TOM SACHS, IMAGE CREDIT GENEVIEVE HANSON

(左から)《PAM》 2013年
©TOM SACHS, COURTESY OF TOMIO KOYAMA GALLERY
《CHASEN》
2015年
©TOM SACHS, IMAGE CREDIT GENEVIEVE HANSON

画像: 『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。サックスが自作したブロンズ製の釜、茶碗、モーター付き茶筅(ちゃせん)、電動で動く杓(しゃく)などの茶道具が並ぶ PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。サックスが自作したブロンズ製の釜、茶碗、モーター付き茶筅(ちゃせん)、電動で動く杓(しゃく)などの茶道具が並ぶ
PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

 こうしたサックスのものづくりの精神が、日本の“茶のこころ”に通じていると聞くと意外に思うかもしれない。実はサックスは2012年から茶道を学びはじめ、2016年にはNYのイサム・ノグチ美術館で“茶の湯”をテーマにした個展『トム・サックス ティーセレモニー』を開催。その後、展覧会はアメリカ各地を巡回した。いま、東京オペラシティ アートギャラリーで開かれている同名の展覧会は、そのアップデート版だ。

 報道関係者向けの内覧会に出席したサックスは、会場を案内しながら“茶の湯”から得た創作的なインスピレーションについて、こう語った。

「茶道の背景にある哲学や精神性にとても惹かれるんだ。たとえば、茶碗はもともとは土だよね? それを焼くことで、石のように硬化させ、半永久的にかたちに残るものにする。土という質素なものから生まれたモノに、茶人たちは洗練を見い出し、人生をかけてその美を探求するーー。僕自身、“物質や素材を変化させること”に興味をもち制作を行なってきたから、そこに特別な魅力を感じているのかもしれない」

画像: 『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。「外露地」にあたるスペースには池も用意され、その中では鯉が泳ぐ PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。「外露地」にあたるスペースには池も用意され、その中では鯉が泳ぐ
PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

画像: 『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。「内露地」には、綿棒、歯ブラシ、トイレットペーパーの芯などでできた盆栽や四畳半の茶室、ダンボールでできた灯篭が置かれている PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

『トムサックス ティー セレモニー』展示風景。「内露地」には、綿棒、歯ブラシ、トイレットペーパーの芯などでできた盆栽や四畳半の茶室、ダンボールでできた灯篭が置かれている
PHOTOGRAPH BY TADASHI ONO

 会場には、茶の湯に魅了されて以降、サックスがこれまでに創作した、たくさんの手びねり茶碗や茶道具のブリコラージュ作品、茶事に付随するさまざまなオブジェが展示されている。が、この展覧会が面白いのは、お行儀よくモノを飾ることに終わっていない点だ。サックスは、庭園を仕切る門、鯉が泳ぐ池、雪隠(トイレ)、石灯篭、つくばい、卒塔婆、盆栽、飛び石、茶室を、実用的なかたちでギャラリー空間全体に配置。ギャラリーを丸ごと“茶事の場”に変えてみせた。

 内覧会では、実際にサックス自ら茶室に上がり、自作の茶道具で茶を点ててくれた。お湯が沸くと茶室内に大きくブザー音が響き、電動式の茶筅(ちゃせん)で抹茶を攪拌する。掛け軸は、“it's not bragging if you can back it up(実力が証明できるなら、大口を叩いても問題ではない)”というモハメド・アリの格言を記した書。お菓子はナビスコ社の“オレオ”だ。

画像: 自作の茶道具を使って、茶を点てるトム・サックス PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

自作の茶道具を使って、茶を点てるトム・サックス
PHOTOGRAPH BY MASANOBU MATSUMOTO

 サックスは、こうした茶事を“パフォーマンス”ではなく“デモンストレーション”と表現する。つまりは、サックスによる身体表現ではなく、あくまで彫刻作品を主役にした実演というわけだ。

「僕は茶人ではなく、モノをつくる人間。“茶の湯”を骨組みにして、僕の彫刻的な経験に基づいた作品を、実際に使ってみせることが第一義なんだ」とサックス。そして、正直、エリート主義的な茶会は苦手だと本音を漏らしつつも、以前、茶道の師に教わったという好きな言葉を教えてくれた。「茶会は“亭主がまず楽しむこと”が大切だ」

 デモンストレーションの最中、観賞者から笑いが起こるとサックスもニヤリとする。『ティー セレモニー』は、彼にとって、ある意味、完璧な茶会なのだ。

『トム・サックス ティーセレモニー』
会期:〜6月23日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00〜19:00(金・土曜は〜20:00)
※入館は30分前まで
休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)
料金:一般 ¥1,400、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
TEL: 03(5777)8600(ハローダイヤル)
公式サイト

 

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