芸術家 アイ・ウェイウェイが、愛すべき猫たちとの生活、そして日常をともにしてきた猫という生きものの存在について、率直に、ときにユーモアを交えながら語る

INTERVIEW BY ALICE NEWELL-HANSON, PHOTOGRAPH BY CATARINA OSÓRIO DE CASTRO, TRANSLATED BY HARU HODAKA

  私の猫たちは、自分たちがものすごく大事な存在だと思っている。猫たちは、いつも私のベッドの真ん中か、私の肩の上で眠りたがるんだ。それを阻止しようとするのはかなり大変だ。でも彼らがいるおかげで、毎日がとても楽しい。

シャドウは、近所の人が近くで見つけた猫だ。ゴミの中に捨てられていたんだ。彼女はとても小さいが、好奇心の塊だ。ハーフは6歳で、シャドウより洗練されている。私は2015年から2020年までベルリンに住んでいたが、ベルリンの自分のスタジオで飼っていたハーフを、ポルトガルに連れてきたんだ。イエローは野良猫だったのを私が拾ってきた。彼はものすごく人なつこい。私が散歩に行くと後ろをついてくるんだ。まるで犬みたいに。でももちろん、どの猫もみんな自立心旺盛だ。

ポルトガルの私たちの家は野原の中にあるから、彼らは一日じゅう外を走り回っていられるんだ。ベルリンでは私たちはアパートメントの上のほうの階に住んでいたが、ハーフと、そして当時、もう1匹飼っていた猫が、部屋の窓から外へ飛び降りてしまった。幸い彼らに怪我はなかった。猫ってやつは本当にすごいよ。驚嘆させられる。ほかの動物だったら、命は助からなかっただろう。

画像: 艾未未(アイ・ウェイウェイ) アーティスト、63歳。生後10カ月のシャドウ(左)と1歳のイエロー。ポルトガルのモンテモロノボにある彼らの自宅で2021年2月22日に撮影

艾未未(アイ・ウェイウェイ)
アーティスト、63歳。生後10カ月のシャドウ(左)と1歳のイエロー。ポルトガルのモンテモロノボにある彼らの自宅で2021年2月22日に撮影

 私は1960年代に中国の石河子で育ったが、当時はペットを飼っている家庭は見あたらなかった。共産主義は、個人が私有財産を持つことに反対だから当然だが。さらに、当時は動物に愛情をかける行為は怪しいと疑問視されていたんだ。動物は、ロバや馬など、生産性を上げるための道具か、もしくは食肉である場合のみ価値があるとされていた。さらに、私の母親の時代には、動物は不潔だと思われていたし。共産主義は清潔さにとことんこだわるんだ――心が清らかで、身体も清潔でなければならない――だから身体のどこかに一本でも動物の毛がついていたら、もうダメなんだ。でも2000年に私が北京に自分のスタジオを建てたとき、私が何よりも最初にやりたかったのは、生きものを飼うことだった。だから猫を買った。それが最初に飼った猫だ。その後20年間、彼の面倒をみることになったよ。

 私の北京の事務所には一時は30匹以上の猫がいた。どれもみな救出した猫だ。中国南部のいくつかの都市、たとえば広州市などには「龍虎鳳」と呼ばれる有名な料理が存在する。その料理にはたいてい猫や蛇の肉も入っているんだ。その土地ならではのクレイジーな風習だが、自分の街の近所の猫を捕獲し、南部に輸送して売る人間がいるんだ。私は2009年に、中国小動物保護協会という非政府組織団体と共同で、小さな檻に入れられた400匹の猫がトラックの荷台いっぱいに積まれていたのを摘発したことがある。動物保護の団体といっても、実際のところは有志の若者たちのことだが。中国では、非政府組織団体が存在すること自体、不可能だからね。400匹の猫の全部を私が引き取るのは無理だったから、40匹だけ自宅に連れて帰った。一匹一匹、まったく違うんだ。たとえ何匹いても、それぞれ違った個性がある。

 中国では、私はひどいストレスにさらされていた。毎日、外を歩くたびに見張られていたし、秘密警察が私を尾行し、公園でもレストランでも私を監視していた。だが、猫たちにはそんなことは関係ないんだ。彼らは人間の苦難に興味はない。しかし、それでいて、猫たちはいつも私たちを幸せな気持ちにしてくれる。私は北京にいたときに何度もビデオ・インタビューを受けたが、毎回、ある1匹の猫が必ず私の机の上に跳び乗り、パソコンの前に寝っ転がるんだ。彼は私の会話をすべて把握していたから、実はこの猫はスパイなんだと、私はよく冗談を言っていた。私は2015年に北京を去ったが、私のスタジオは北京にまだあり、アシスタントたちが猫の写真を送ってくれる。そのうちの1匹が亡くなると、どうやって埋葬したかを彼らが伝えてくれるよ。

 動物たちは私に実に多くのことを教えてくれた。まったく異なる本能と直感を備えた別の生きものと日頃接することは大切だ。人間というものは非常に理性的で、知識あってこそ人間と定義される。そしてその知識のせいで感情が抑圧され、自分が何者なのか、理解できなくなってしまうんだ。しかし、心を開いて猫の世界を理解しようとすれば、人間社会では味わえないことを経験できる。知識など何ひとつ持っていなくても、幸せな人生を送ることができるということを猫は教えてくれる。彼らは自分の世話は自分でやるし、楽しみも自分で作り出せる。個として生き、自分でいることに充足している――。生きる醍醐味をちゃんと知っているんだ。

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