修復プロジェクトにより“新た”になったフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》を含む17世紀のオランダ絵画展、ウィーン生まれのデザイナー上野リチの回顧展、制御とズレをテーマにした川人綾のインスタレーション。今週絶対に見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』|東京都美術館

画像: ヨハネス・フェルメール 《窓辺で手紙を読む女》(修復前) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館 © GEMÄLDEGALERIE ALTE MEISTER, STAATLICHE KUNSTSAMMLUNGEN DRESDEN, PHOTO BY HERBERT BOSWANK (2015)

ヨハネス・フェルメール 《窓辺で手紙を読む女》(修復前) 1657-59年頃 ドレスデン国立古典絵画館
© GEMÄLDEGALERIE ALTE MEISTER, STAATLICHE KUNSTSAMMLUNGEN DRESDEN, PHOTO BY
HERBERT BOSWANK (2015)

 ヨハネス・フェルメールの初期の傑作《窓辺で手紙を読む女》には特別なエピソードがある。じつはこの作品、1979年、X線調査によって背景の壁面部分の下に「キューピッドの画中画」が描かれていることが判明。ただ作家自身が制作の過程で塗りつぶしたものだと考えられ、上の写真のように画中画は隠れた状態のまま公開されてきた。しかし、2017年、事のありさまは一転する。使われている画材を分析したところ、キューピッドの姿が上塗りされたのは、作家の死後、つまりフェルメール以外の誰かによって消されたことが明らかになったのである。絵画は、画家が完成させた状態で保存するのが通例。こうして上塗り部分を取り除く修復プロジェクトが始まったのであった。

 ドレスデン国立古典絵画館のコレクションからレンブラント、メツー、ファン・ライスダールといった17世紀オランダの画家たちの名画を約70点紹介する本展。その大きなみどころは、言うまでもなく、修復後の《窓辺で手紙を読む女》だ。ドレスデン国立古典絵画館以外でその姿が公開されるのは本展が世界初となる。絵の中で窓辺の女性が読んでいるのは、おそらく当時流行したラブレター。愛の神であるキューピッドが現れたことで、この絵画の印象も、内在する物語も以前とはまた違って見えてくるだろう。会場でじっくり堪能したい。

『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』
会期:~4月3日(日) 
会場:東京都美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
※金曜の夜間開室は、展覧会公式サイトでご確認ください。
休室日:月曜、3月22日(火) ※ただし2月14日、3月21日は開室
観覧料:一般 ¥2,100、大学・専門学校生 ¥1,300、65歳以上 ¥1,500、高校生以下無料
※日時指定制、要予約。詳細はこちら
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展』|三菱⼀号館美術館

画像: 上野リチ・リックス《プリント服地デザイン:ボンボン(2)》1925-35年頃 京都国立近代美術館 COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, KYOTO

上野リチ・リックス《プリント服地デザイン:ボンボン(2)》1925-35年頃 京都国立近代美術館
COURTESY OF THE NATIONAL MUSEUM OF MODERN ART, KYOTO

 ウィーン生まれの女性デザイナー上野リチ(フェリーツェ・リックス)の作品と人生をつまびらかにする世界初の大規模な回顧展が三菱一号館美術館で始まった。リチはウィーン工芸学校において、クリムトとともにウィーン分離派を牽引したヨーゼフ・ホフマンに師事し、卒業後はホフマンが主宰したウィーン工房でデザイナーに。その後、ホフマンの建築事務所に勤務していた建築家・上野伊三郎と出会い、結婚し、京都へ移住した。

 以降、しばらくの間、日本とウィーンを行き来しながら次々と独自性のあるデザインを発表していったリチ。会場には、和のエッセンスが感じられるテキスタイルデザインや愛らしい小物類が並び、また晩年の代表作である日生劇場のレストラン「アクトレス」の壁画、京都の木屋町にあったカフェ・レストラン「リックス・ガーデン」の装飾ガラスや装飾タイルなども紹介する。「デザインには“ファンタジー”が大切」とは展覧会で紹介されているリチの言葉だ。このファンタジーの語源には「想像力」や「先を見通す」といった意味もあるそうだ。死後50年以上たった今でも、新鮮な魅力を放つリチのデザイン。想像力を発揮して独自性を獲得した彼女の仕事を目の当たりにしたい。

上野リチ ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展
会期:〜5⽉15⽇(⽇)※展示替えあり
会場:三菱一号館美術館
住所:東京都千代田区丸の内2-6-2
開館時間:10:00〜18:00 (祝⽇をのぞく⾦曜と会期最終週平⽇、第2⽔曜、4⽉6⽇は21:00まで)
※⼊館は閉館の30分前まで
休館日:月曜、4⽉12⽇(2⽉28⽇、3⽉21⽇、3⽉28⽇、4⽉25⽇、5⽉2⽇、5⽉9⽇は開館)
料金:一般 ¥1,900、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『川人綾:斜めの領域』|京都市京セラ美術館

画像: 『織(Ori)Scopic』イムラアートギャラリー(京都)での展示風景 2021年 PHOTOGRAPH BY AKIHITO YOSHIDA

『織(Ori)Scopic』イムラアートギャラリー(京都)での展示風景 2021年
PHOTOGRAPH BY AKIHITO YOSHIDA

 グリッド状の単純なモチーフを何層にも重ねながら手で描くことで生じる「ズレ」。川人綾はそこに、人間のコントロールできる領域を超えた美しさを見出し、見る者の目を惑わすような絵画やインスタレーション作品などを発表してきた。大学では染織を専攻。神経科学者の父の影響を受け、錯視効果をはじめ視覚と認知のメカニズムにも関心を寄せて育った。彼女の作品を特徴づける「ズレ」とは、染織の手作業の過程で生じるズレ、そして捉える対象とイメージの視覚認知的なズレを含んでおり、いわば工芸と科学の両方に対する関心が作品の魅力として現れている。

 京都市京セラ美術館 ザ・トライアングルで開かれている個展では、絵画作品のほか、ガラス張りの展示空間を利用したインスタレーションも発表。ガラス面全体を垂線と斜線で形作られたグリッドのペインティングで覆い、見る位置、見る角度によって変化し、またモチーフが揺れ動くような視覚体験を鑑賞者に促すという作品だ。なお、このインスタレーションは、3月末まで作家が随時、会場にて滞在制作を行う。少しずつ変化しながら空間に溶け込んでいく作品の姿にも注目したい。

『川人綾:斜めの領域』
会期:〜5月15日(日)
会場:京都市京セラ美術館 ザ・トライアングル
住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜(ただし5月2日は開館)
観覧料:無料
電話:075-771-4334
公式サイトはこちら

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