さまざまな問題意識を抱え、アートへと昇華させるアーティストたち。若き彼女たちを駆り立てる創作の原動力とは

TEXT BY NAOKO AONO, EDITED BY JUN ISHIDA

ATSUKO MOCHIDAーー次の時代に残るのはものか、あるいはコンセプトか

 家の一部が切り取られ回転する。行き先のない螺旋階段が屹立する。持田敦子の作品は建物や空間に介入するダイナミックなものだ。

──なぜこうした作品をつくるように?

画像: 《T家の転回》(2017)。10年以上放置されていた木造家屋を舞台に制作された作品。直径5mの円形に切り取られた家が回転する PHOTOGRAPH BY TATSUYUKI TAYAMA, RYUICHI TANIURA ©ATSUKO MOCHIDA

《T家の転回》(2017)。10年以上放置されていた木造家屋を舞台に制作された作品。直径5mの円形に切り取られた家が回転する
PHOTOGRAPH BY TATSUYUKI TAYAMA, RYUICHI TANIURA ©ATSUKO MOCHIDA

 子どもの頃、壁際のベッドで眠るなど、壁と“親密な関係”を築いていました。美大に通っていたとき、大学の階段にそのベッドルームの壁を拡大して設置するというインスタレーションをつくったんです。プライベートをパブリックな場に差し込むコンセプトです。留学先のドイツでは刑務所だった建物の壁を抜いて内外をつなげる作品を考えました。でも壁は厚さが60㎝もあって無理だよ、と笑われた。そこで建築やエンジニアリングの学生にも協力してもらい、壁のれんがを一つ抜いてつくった小さな穴から内部と外部をパイプで円環状につなぐ作品を発表しました。壁は建物を支えるほかにもいろいろな意味がある。そこに穴を開けてみたいと思ったんです。

──家の一部が回転する《T家の転回》の舞台となったのはお祖母さんの家だそうですが。

 第二次世界大戦前に建てられた古い家で、祖母が結婚して移り住み、子どもを産み育てた、私の母の生家でもあります。出産とともに増築を繰り返した家が少しずつ朽ちていく様は、年々自由がきかなくなってゆく祖母の身体とも重なりました。また制作時に、建物を支える構造を切ること、つなげることを建築用語でそれぞれ「縁を切る・つなげる」ということを知り、建物も人間関係と同じだな、と興味深く思いました。母や祖母が生きていたのは、家と女性が今よりももっと密接に結びついていた時代です。《T家の転回》では、祖母が逃げ出したいと思ってもできなかった「家」の「縁」を切って回転させ、空気を入れ換えます。じめじめした畳など、家に潜んでいた「闇」を外に出して白日の下にさらす。この作品の背景にはそんな家と女性の関係性もあります。

──螺旋階段も“回転”を取り込む構造物です。

画像: 《Steps》(2021)。仮設的な素材でつくられた、どこにも行くことができない螺旋階段。階段は2013年から手がけてきた、作者にとって重要なテーマだ。この作品は『TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展』で展示された PHOTOGRAPH BY TATSUYUKI TAYAMA, RYUICHI TANIURA ©ATSUKO MOCHIDA

《Steps》(2021)。仮設的な素材でつくられた、どこにも行くことができない螺旋階段。階段は2013年から手がけてきた、作者にとって重要なテーマだ。この作品は『TERRADA ART AWARD 2021 ファイナリスト展』で展示された
PHOTOGRAPH BY TATSUYUKI TAYAMA, RYUICHI TANIURA ©ATSUKO MOCHIDA

 コロナ禍で中止になってしまいましたが、この作品は札幌の「モエレ沼公園」に設置する計画もありました。モエレ沼公園はイサム・ノグチが宇宙からも見える「大地の彫刻」を目指してつくったものです。その巨大なものに抵抗して人間の身体のスケールを感じられるものを入れ直し、自分の手に取り戻すというコンセプトです。回転や円といった要素は、四角い空間に斜めのものを入れることで切り崩したい、という衝動の表れでもあります。

──私たちは「美は永遠に残る」と思いがちですが、持田さんの作品には《T家の転回》など解体されてしまったものもあります。

《T家の転回》は解体せざるを得なかったので、再現の可能性を探りつつ映像などの記録をとりました。たとえものはなくなっても、大事なのはやろうとしたこと、コンセプト、実際にやったこと、作品で得た体験だと思います。社会の中で起きたことをどう切り取るか、そのコンセプトを残すことが美を次の時代に残すことなのではないでしょうか。

画像: 持田敦子(ATSUKO MOCHIDA) 1989年東京都生まれ。2018年バウハウス大学ワイマール大学院、東京藝術大学大学院修了。『Reborn-Art Festival 2019』では民家の一部を切り取って持ち上げるという作品、『北アルプス国際芸術祭 2020-2021』では2 軒の住宅の一方にもう一方を挿入するという作品を発表した。『2020年のさざえ堂―現代の螺旋と100枚の絵』(太田市美術館・図書館)などに参加、大阪・北加賀屋のMASK[MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA]に常設作品がある PORTRAIT BY PEZHMAN ZAHED

持田敦子(ATSUKO MOCHIDA)
1989年東京都生まれ。2018年バウハウス大学ワイマール大学院、東京藝術大学大学院修了。『Reborn-Art Festival 2019』では民家の一部を切り取って持ち上げるという作品、『北アルプス国際芸術祭 2020-2021』では2 軒の住宅の一方にもう一方を挿入するという作品を発表した。『2020年のさざえ堂―現代の螺旋と100枚の絵』(太田市美術館・図書館)などに参加、大阪・北加賀屋のMASK[MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA]に常設作品がある
PORTRAIT BY PEZHMAN ZAHED

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