BY JUN ISHIDA, PORTRAIT BY KOHEI OMACHI
ANA SCRIPCARIU-OCHIAI ーー見えない壁を可視化し、乗り越えようとする力
日本とルーマニアというミックスルーツを持つスクリプカリウ落合安奈。人と人の間に立ちはだかるさまざまな壁をテーマとした作品を3年にわたって制作し続けた。
──《骨を、うめる》は2019年以来つくり続けている作品ですが、落合さんにとってどういう意味を持つものなのでしょう?
自分の出自であるミックスルーツから見る、“国”という枠組みに関心を抱きました。時代とともに世界は変化しているのに、昔つくられた”国”という枠組みは追いついていない部分があると思うんです。この作品は、いわゆる「鎖国」下にあった江戸時代にフィアンセに会いにベトナムへと渡り、その地で亡くなった人物のお墓を訪れたことから始まりました。これまで母や自分のもうひとつのルーツであるルーマニアをモチーフにして作品をつくってきましたが、直接関わりのない誰かの物語をモチーフにしたのは初めてでした。
──一貫して同じテーマを追い続ける理由は?
日本で生まれ育ったのですが、外国人として扱われるような経験が幼少期から多々ありました。昔から深い根のように続いていることの延長に自分の生があって、同じ時代に生きている人たちとの間にも摩擦のようなものを感じて過ごしてきました。美術の道に進んだのは、幼い頃から絵を描くのが好きで、周りの人に褒めてもらうことも多く、「ものをつくる」ことが大事なコミュニケーションツールとなったんです。そして現代美術に出会い、社会問題に対して作品に昇華するという向き合い方を知り、一人で悩んでいたことが自分だけの問題ではないことにも気がつきました。国境を越えて生を受ける人は今後も増えていくと思いますので、微力かもしれないですけれど、美術の力を使って少しでもいい方向に変えていくことができたらと思います。美術はいろいろな受け取り方をしてもらえるので、たくさんの人に「問いの種」のようなものを自然に残していける作品をつくれれば。
──この作品はコロナ禍でもつくり続けられました。鎖国が再び現実化したような状況は、創作に影響を与えましたか?
作品をつくり始めた時点では「鎖国」は遠い過去のもので、いかにそれをフィールドワークなどで引き寄せるかをずっとやっていたのですが、現実に鎖国のような状態になって、コミュニティや国の輪郭が壁のように立ち上がり、みんながその中でくくられる状況になった。私自身のリアリティも変化しましたが、作品と鑑賞者の関係も変わったと思います。よりリアリティを持って作品が届く状態ができたように感じます。
──落合さんを創作へと駆り立てるものは?
もっと世界の構造を知りたいという思いでしょうか。創作を通じて、いろいろな人や土地と出会うことで、世界の構造が見えてくると同時に、自分の世界の見方が広がってゆく。世界への好奇心が創作の原動力であり、アートは私と世界をつなぐものなのです。