都市のディテールや自然の山肌など、人間が住む世界を上空から捉えたジオラマ風の写真で知られる本城直季の個展。1960年代から70年代にかけてアメリカで興ったミニマリスムとコンセプチュアリスムを振り返る企画展。赤と黒で見る、岡本太郎の作品世界。今週絶対に見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『本城直季 (un)real utopia』|東京都写真美術館

画像: 《Tokyo, Japan》 2005年(small planetシリーズより) ©NAOKI HONJO

《Tokyo, Japan》
2005年(small planetシリーズより)
©NAOKI HONJO

 写真家・本城直季の風景写真が見る者にどこか不思議な印象を与えるのは、「アオリ」と呼ばれるテクニックが使われていることが理由のひとつだ。この「アオリ」とは、蛇腹式のカメラのレンズ面とフィルムが置かれる撮像面の間に角度をつくることで、パースペクティブをゆるやかにしたり、ピントを“斜め”にあてたりできるアナログな手法。パースがきつくなる高い建築を自然に写すため建築写真の現場などでよく使われるこのテクニックーーある意味、自然に見えるように“調整”するためのテクニックを、本城は視覚表現のひとつの技法として使いこなし、リアルな俯瞰的風景を虚構的で箱庭のような世界へとつくり変えてきた。

 本展は本城にとって初の大規模な個展。新作・未発表作を含む約200点を展示し、これまでの作家としての仕事をまとめて見せる。よく知られた都市の箱庭的な写真作品から東日本大震災後の被災地や宝塚歌劇団の舞台を撮影したもの、またヘリを飛ばし、アフリカ・ケニアを上空から捉えた「kenya」シリーズなど、本城作品の幅の広さを実感できる内容だ。特に「kenya」シリーズは、自然の中に生きる象やキリンがまるで小さいミニチュアのように写されており、実に愛らしい。空を飛ぶフラミンゴの群れをさらに上空から捉えたカットは、無数の鳥がピンク色のかたまりのようにボケて表現され、空に舞う桜のようにも見えて、絵画のような美しさがある。

『本城直季 (un)real utopia』
会期:~5月15日(日)
会場:東京都写真美術館
住所:東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
時間:10:00〜18:00(木・金曜は20:00まで)※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜 ※ただし5月2日(月)は開館
料金:一般 ¥1,100、大学・専門学校生 ¥900、高校・中学生・65歳以上 ¥550、小学生以下無料
電話:03(3280)0099
公式サイトはこちら

『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』|兵庫県立美術館

画像: ソル・ルウィット《モデュラー・ストラクチャーのためのワーキング・ドローイング》 1970年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館 © 2021 THE LEWITT ESTATE; FOTO: ACHIM KUKULIES, DÜSSELDORF

ソル・ルウィット《モデュラー・ストラクチャーのためのワーキング・ドローイング》
1970年 ノルトライン=ヴェストファーレン州立美術館
© 2021 THE LEWITT ESTATE; FOTO: ACHIM KUKULIES, DÜSSELDORF

 1960年代から70年代にかけてアメリカで興ったミニマリスムとコンセプチュアリスム。本展は、今日のアートシーンにも大きく影響を与えているこの2つのムーブメントを、18組の作家の作品を通じて振り返る企画展だ。

 ミニマリスムは、主に60年代、作家の手仕事やその痕跡を排除し、工業用素材や既製品を用いて、単純で幾何学的な形やその反復によって構成される作品を目指したもの。この潮流に続いて、国際的に広まったコンセプチュアリスムは、ものとしての制作物以上に、その構成を決めるコンセプトやアイディアを重視するもので、特定の形式に縛られることなく、言葉や印刷物、日用品、作家自身の行為、それを記録する写真や映像など、多様な媒体が用いられた。

 この美術動向にいち早く注目し、世界に伝えたドロテ&コンラート・フィッシャー夫妻のコレクションを中心に、本展では、日本国内に所蔵される主要作品、また当時の作家たちが残した書簡や制作のための指示書といった貴重な資料も展示される。美術史を大きく動かした作品とアーティストたちの思考のプロセスを体感できるという意味で、現代アートファンにも入門者にもおすすめの展覧会だ。

『ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960-70年代美術』
会期:~5月29日(日)
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1-1-1 HAT神戸内
時間:10:00〜18:00 (入館は閉館の30分前まで)
休廊日:月曜
入館料:一般 ¥1,600、70歳以上 ¥800、大学生 ¥1,200、高校生以下無料
電話:078-262-1011
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『赤と黒』|岡本太郎記念館

画像: (左から)《アドレッサン》《遊ぶ時間》(部分) COURTESY OF TARO OKAMOTO MEMORIAL MUSEUM

(左から)《アドレッサン》《遊ぶ時間》(部分)
COURTESY OF TARO OKAMOTO MEMORIAL MUSEUM

 赤と黒。本展は、岡本太郎の絵画を象徴するこのふたつの色をテーマにした企画展だ。「赤の中から生まれ、赤の中に生きているという感じがする」というほど幼い頃から赤に執着してきた太郎。パリ留学中に描いた代表作のひとつで、アンドレ・ブルトンによって第1回シュルリアリスム展で紹介された《傷ましき腕》は、真っ赤なリボンがモチーフだった。日本に帰国した後も侘び寂びを尊ぶ“灰色の世界”にあえて強烈な原色をぶつけ、特に「血を思わせる激しい赤」を好んで用い、日本の美術シーンを挑発した。

 1960年代になると、積極的に黒を描きはじめる。たとえば、梵字にも似た黒の抽象的なモチーフが画面を支配する、暗く不気味な呪術的な世界。「己れを滅びに導く、というより死に直面させるような方向、黒い道を選ぶのだ」とは、黒に関する太郎の言葉だ。彼のアイデンティティでもあった赤と黒。ふたつの色にフォーカスすることで岡本太郎の世界観をつまびらかにする。

『赤と黒』
会期:~7月18日(月)
会場:岡本太郎記念館
住所:東京都港区南青山6-1-19
時間:10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日:火曜(祝日の場合は開館)
料金:一般 ¥650、小学生 ¥300
電話:03(3406)0801
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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