自然豊かな瀬戸内の12の島と高松、宇野で開かれる瀬戸内国際芸術祭が今年も開幕した。5月18日までの春会期のうちに訪れたいスポット、作品を紹介する

BY MASANOBU MATSUMOTO

『瀬戸内国際芸術祭2022』|瀬戸内海の12の島+高松港・宇野港

 3年に1度開かれる瀬戸内国際芸術祭が、今年も開幕した。この芸術祭は、瀬戸内海に浮かぶ12の島と香川県・高松、岡山県・宇野港周辺を舞台にした現代アートの祭典で、「海の復権」がテーマ。近代以降、交通網を含むインフラの整備・発展が「陸」を中心に進むなか、取り残されてきた瀬戸内の文化資源を、アートや建築の力で再発見することが趣旨のひとつだ。

 実際、前回の『瀬戸内国際芸術祭2019』では100万人を超える人が訪れ、また『ナショナルジオグラフィック』や『ニューヨーク・タイムズ』などの海外メディアが、世界有数の訪れるべき地域として、この芸術祭を開催している瀬戸内海を取り上げた。総合ディレクターの北川フラムは「長らくホワイトキューブで展示されてきたような商品としてのアートとは異なる美術の力や意味が、この芸術祭を通じて発見されてきた。地域づくりのモデルにもなり、21世紀型とも言える美術の展開に寄与してきた」と話す。

画像: [小豆島]青木野枝《空の玉/寒霞渓》 写真提供:瀬戸内国際芸術祭 COURTESY OF ART SETOUCHI

[小豆島]青木野枝《空の玉/寒霞渓》
写真提供:瀬戸内国際芸術祭
COURTESY OF ART SETOUCHI

 瀬戸内の歴史や地理を反映させたサイトスペシフィックな作品の鑑賞、島巡り、現地の人との交流、ローカルな食と、多様な体験ができる芸術祭だが、地域づくりとして行政の地域計画と合わせたプロジェクトが展開されているのも特筆すべき点だ。

 たとえば「女木島名店街」。周辺の島々では移住者を中心に人口が増えているのに対し、近年、女木島は減少傾向にある。そこで芸術祭の参加アーティストに空き家などを利用してユニークな商店の制作を依頼。社会生活の基盤となるお店をつくることで、人々の定住への道筋を探ろうとするプロジェクトだ。

 すでに2019年、原倫太郎+原游の卓球テーマパーク《ピンポン・シー》、自身ではなく海を見ながらヘアカットをしてもらえる宮永愛子の《ヘアサロン 寿》、洗濯機が回る映像作品を組み合わせたレアンドロ・エルリッヒの《ランドリー》など、来島者も島民も利用できる“アートなお店”が完成しているが、今年はさらに新たな作家によるショップが増え、名店街が充実。見どころのひとつになっている。

画像: [女木島]宮永愛子「島の中の小さなお店」プロジェクト《ヘアサロン壽》 PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

[女木島]宮永愛子「島の中の小さなお店」プロジェクト《ヘアサロン壽》
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

画像: [女木島]レアンドロ・エルリッヒ「島の中の小さなお店」プロジェクト《ランドリー》 PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

[女木島]レアンドロ・エルリッヒ「島の中の小さなお店」プロジェクト《ランドリー》
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

 そのひとつが、漁師でありながらガラス工芸家である柳建太郎の《ガラス漁具店》。ここでは柳が制作したガラス切子の浮きなど釣り具を展示・販売する。岩沢兄弟の《鬼ヶ島ピカピカセンター》では、空き家であったショップに残されていたもの、島で見つけたものをアップサイクルした“ピカピカな照明器具”が商品になる。舞台美術などで知られる中里繪魯洲は《ティンカー・ベルズ ファクトリー》。ティンカー・ベルはピーターパンに登場する妖精のことだが、ティンカーには、鋳掛屋、金物修理屋、下手な職人、いたずらっ子の意味も。ここでは、島の人たちの持ってきた鍋釜などのお直しサービスを行い、オリジナル商品も販売する。また五所純子のリサイクルショップなど、美術館のスーベニアショップとも違う特色豊かな店が周辺に並ぶ。

画像: [女木島]柳建太郎《女木島名店街 ガラス漁具店》 写真提供:瀬戸内国際芸術祭 COURTESY OF ART SETOUCHI

[女木島]柳建太郎《女木島名店街 ガラス漁具店》
写真提供:瀬戸内国際芸術祭
COURTESY OF ART SETOUCHI

 各島には新作も登場するが、会場となる島のうち沙弥島で作品が公開されるのは、春会期(5月18日まで)のみ。この期間に訪れたい。ここではレオニート・チシコフと南條嘉毅が新作を展示する。レオニート・チシコフの《月への道》は、瀬戸大橋をのぞむ旧沙弥小・中学校とバス停、また沙弥島の隣島・与島で明治時代から150年にわたって航海の難所を照らしてきた鍋島灯台を舞台にしたインスタレーション。沙弥小・中学校から鍋島灯台へ旅をしながら作品を鑑賞するスタイルで、鍋島灯台では100万個の星をもつ宇宙の立方体のオブジェが待ち受ける。

画像: 左から[沙弥島]レオニート・チシコフ《月への道》(旧沙弥小中学校)、[沙弥島]レオニート・チシコフ《月への道》(与島・鍋島灯台) 写真提供:瀬戸内国際芸術祭 COURTESY OF ART SETOUCHI

左から[沙弥島]レオニート・チシコフ《月への道》(旧沙弥小中学校)、[沙弥島]レオニート・チシコフ《月への道》(与島・鍋島灯台)
写真提供:瀬戸内国際芸術祭
COURTESY OF ART SETOUCHI

 またこの3月、ベネッセアートサイト直島に完成した「杉本博司ギャラリー 時の回廊」、安藤忠雄が設計した「ヴァレーギャラリー」も合わせて訪れたいスポットだ。「杉本博司ギャラリー 時の回廊」では、杉本博司の写真作品や《硝子の茶室「聞鳥庵」》、そして杉本が主宰する新素材研究所のデザインによる家具など、「ヴァレーギャラリー」では、草間彌生の《ナルシスの庭》、小沢剛の《スラグブッダ88 – 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏》を観覧できる。

画像: 杉本博司ギャラリー 時の回廊 展示風景、2022年 撮影:森山雅智 PHOTO: MASATOMO MORIYAMA

杉本博司ギャラリー 時の回廊
展示風景、2022年 撮影:森山雅智
PHOTO: MASATOMO MORIYAMA

画像: 「ヴァレーギャラリー」での草間彌生《ナルシスの庭》の展示風景 Yayoi Kusama, Narcissus Garden, 1966/2022, Stainless steel spheres COPYRIGHT OF YAYOI KUSAMA PHOTO: MASATOMO MORIYAMA

「ヴァレーギャラリー」での草間彌生《ナルシスの庭》の展示風景
Yayoi Kusama, Narcissus Garden, 1966/2022, Stainless steel spheres
COPYRIGHT OF YAYOI KUSAMA PHOTO: MASATOMO MORIYAMA

『瀬戸内国際芸術祭2022』
会場:瀬戸内海の12の島+高松港・宇野港
会期:[春会期]〜5月18日(水)、[夏会期]8月5日(金)〜9月4日(日)、[秋会期]9月29日(木)〜11月6日(日)
料金:3シーズンパスポート[一般]¥5,000、[16〜18歳]¥3,100、会期限定パスポート[一般]¥4,200、[16〜18歳]¥2,600、デイチケット¥1,800、2デイチケット¥3,200
電話:087-811-7921(瀬戸内国際芸術祭2020チケットセンター)
公式サイトはこちら

『杉本博司ギャラリー 時の回廊』
住所:香川県香川郡直島町琴弾地
開館時間:11:00〜15:00(入館は14:00まで)
鑑賞料金:¥1,500 ※呈茶(お茶とお菓子)付き
※15歳以下、ベネッセハウス宿泊者は無料(呈茶は別途有料)
予約はこちらから。
公式サイトはこちら

『ヴァレーギャラリー』
住所:香川県香川郡直島町琴弾地
開館時間:9:30~16:00(入館は15:30まで)
鑑賞料金:¥1,300(ベネッセハウス ミュージアムの入館料に含む)
※15歳以下、ベネッセハウス宿泊者は無料
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来場時の注意、最新情報は公式サイトを確認ください

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