ボストン美術館のコレクションから読む「芸術と力」の歴史。国際的に活躍する現代美術家ライアン・ガンダーの東京では初となる大規模個展。フィン・ユールら、デンマークが誇る「ヒュッゲ」の精神が息づいたデザイナーズ家具。今週見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『ボストン美術館展  芸術×力』|東京都美術館

画像: (左)伝 狩野永徳 《韃靼人朝貢図屏風》桃山時代、16世紀後半 MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON, FENOLLOSA-WELD COLLECTION (右)《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》江戸時代、17世紀末-18世紀初頭 MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON, WILLIAM STURGIS BIGELOW COLLECTION AND JULIA BRADFORD HUNTINGTON JAMES FUND ALL PHOTOGRAPHS © MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON

(左)伝 狩野永徳 《韃靼人朝貢図屏風》桃山時代、16世紀後半
MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON, FENOLLOSA-WELD COLLECTION
(右)《厚板 萌黄地牡丹立涌模様》江戸時代、17世紀末-18世紀初頭
MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON, WILLIAM STURGIS BIGELOW COLLECTION AND JULIA BRADFORD HUNTINGTON JAMES FUND
ALL PHOTOGRAPHS © MUSEUM OF FINE ARTS, BOSTON

 世界有数のコレクションを誇るアメリカ・ボストン美術館。本展は、その収蔵品の中から「力」をテーマに、エジプトのファラオ、ヨーロッパの王侯貴族、日本の天皇、大名をはじめ、古今東西の権力者たちに関わる作品を紹介するものだ。あるときは権力のシンボルとして、その力の正統性を示すものとして、あるときは献上品のように政治的外交の手段としてーー「力とともにあった芸術」の歴史を振り返る。

 約60点の出展作品のうち、半数以上が日本初公開。日本美術も多く“来日”する。たとえば、奈良時代の学者・政治家、吉備真備が、鬼となった阿倍仲麻呂の助けを借りながら難題を切り抜ける逸話を描いた《吉備大臣入唐絵巻》。平治の乱をテーマにした合戦絵巻の最高傑作のひとつ《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》。いずれも日本に残されていれば国宝に指定されたと考えられている「幻の国宝」だ。また、本展のために修復された、増山雪斎の《孔雀図》も見どころだ。雪斎は伊勢長島藩の大名(本名は正賢で、雪斎は雅号)で、自身芸術家であるとともに、当時の芸術家を支援した人物だ。この《孔雀図》は今回が日本初公開となる。

『ボストン美術館展  芸術×力(げいじゅつとちから)』
会期:~10月2日(月)
会場:東京都美術館
住所:東京都台東区上野公園8-36
時間:9:30〜17:30(金曜は20:00まで)
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜、9月20日
※ただし、8月22日、29日、9月12日、19日、26日は開室
料金:一般 ¥2,000、大学・専門学校生 ¥1,300、65歳以上 ¥1,400、高校生以下無料
※日時指定予約制。詳細はこちら
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』|東京オペラシティ アートギャラリー

画像: 《2000 年来のコラボレーション(予言者)》 2018年 公益財団法人石川文化振興財団蔵 COURTESY THE ARTIST AND TARO NASU PHOTO:STEVIE DIX

《2000 年来のコラボレーション(予言者)》 2018年
公益財団法人石川文化振興財団蔵
COURTESY THE ARTIST AND TARO NASU PHOTO:STEVIE DIX

 ライアン・ガンダーは、ドクメンタやベネチアビエンナーレなどの国際展にも参加し、高い評価を獲得してきた現代アーティスト。オブジェ、インスタレーション、絵画などの方法で、私たちが普段見過ごしていること、当たり前と片付けてしまっていることへの注目をうながし、さまざまな問いを抱かせるような作品を発表してきた。

 本展は、彼の東京では初となる大規模個展。ガンダーが活動の初期から持ち続けている「時間」「お金・価値」「教育」「よく見ないと見えないもの」といった関心に、クスっと笑ってしまうようなユーモアを交えた作品が並ぶ。こうした展覧会では、何の先入観も持たず、まず作品と向き合ってみようという人もいるが、本展の場合、解説を読みながら作品を見るべきだ。倒れている椅子や、展示室の端にぽつんと落ちている紙くずーーこれが何であるかは、おそらくどんなアートのセンスを持ち得た人でもわからない。実際のところ、椅子の座面には小さな蚊のオブジェがもがき転がり(見るべきは椅子ではなく、その蚊だ)、この紙くずは《若き作家への手紙》だ(この手紙は、拾って持ち帰ってもよいそうだ)。それを知った上で、目の前のものがどう見えてくるか、どんな想像が自分の頭に生まれるかが、ガンダー作品の楽しさだ。

 どこに設置されているのかわからないだろう作品もある(さらに言えば、会場にはもはや存在しない作品もある)。よく観察し、わからない場合は係員に問いてみるのも良い。展覧会という場所、そこでの時間に能動的に関わること。そこに「ガンダーの展覧会」に行く醍醐味がある。

『ライアン・ガンダー われらの時代のサイン』
会期: 〜 9月19日(月)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2
開館時間:11:00〜19:00(入場は閉館時間の30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合は開館し、翌日休館)、8月7日
料金:一般 ¥1,400、大学・高校生 ¥1,000、中学生以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『フィン・ユールとデンマークの椅子』|東京都美術館

画像: (左)フィン・ユール《イージーチェア》1955年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲 PHOTOGRAPH BY YUKINORI OTSUKA (右)フィン・ユール《ボーンチェア No.44》1944年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲 PHOTOGRAPH BY YUKINORI OTSUKA

(左)フィン・ユール《イージーチェア》1955年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
PHOTOGRAPH BY YUKINORI OTSUKA
(右)フィン・ユール《ボーンチェア No.44》1944年デザイン 織田コレクション(東川町) 撮影:大塚友記憲
PHOTOGRAPH BY YUKINORI OTSUKA

 まさに「彫刻のような椅子」。デンマークのデザイナー、フィン・ユールが残したチェアは、そう評されてきた。ソファのやわらかい丸み、肘に沿う滑らかなアーム、ほっそりとシャープな脚部ーー。その随所には、建築を学び、美術を愛したフィンならではのこだわりがあらわれている。

 デザイン大国たるデンマークの家具デザインの歴史と遍歴を辿りながら、フィンの作品の魅力を堪能できる本展。椅子のデザインにはじまり、理想の空間を具現化した自宅の設計、住居や店舗、航空機のインテリアデザイン、そのアイデアを練り、伝えるために描いた水彩画まで、フィンの仕事を総覧でき、また同国が生んださまざまなデザイナーズ家具が一度に楽しめるのも魅力だ。また、こうしたデザインがどのように生まれ、育まれていったのか、その背景を探る資料展示も、学びが多い。デンマークの家具デザインは、教育、医療、福祉といった社会システムと密接に関係しながら発展してきた。たとえば、この十数年注目されてきた「ヒュッゲ(心地よい空間や楽しい時間)」といった価値観は、こうしたデザインとともに醸成されてきたものでもある。

 実際に、フィンをはじめさまざまなデンマーク発の名作チェアに座れるコーナーも設けられている。豊かな発想から生まれた椅子に腰を下ろし、そのスピリットを体験したい。

『フィン・ユールとデンマークの椅子』
会期:~10月9日(日)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
住所:東京都台東区上野公園8-36
時間:9:30〜17:30(金曜は20:00まで)
※入室は閉室の30分前まで
休室日:月曜、9月20日
※ただし、8月22日、29日、9月12日、19日、26日は開室
料金:一般 ¥1,100、大学・専門学校生 ¥700、65歳以上 ¥800、高校生以下無料
電話:03-3823-6921
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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