これまでフォーカスされてこなかった、李禹煥の木、紙、土による作品を一堂に展示した個展、「デザインに何ができるか」を問い続けた宮城壮太郎の回顧展、中国の改革開放以降に生まれた世代を代表するアーティストとして注目を集めるツァオ・フェイ(曹斐)の映像上映プログラム。今週見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『李禹煥 物質の肌合い』|スカイザバスハウス

画像: (左から)李禹煥 《突きより》 1972、和紙、墨、159.7×129.7×6cm(ディテール )、《刻みより》 1972、木、128.5×149.7×6cm(ディテール)、《無題》2008、テラコッタ、43×50.5×5cm(ディテール) PHOTOGRAPHS BY NOBUTADA OMOTE, COURTESY OF SCAI THE BATHHOUSE

(左から)李禹煥 《突きより》 1972、和紙、墨、159.7×129.7×6cm(ディテール )、《刻みより》 1972、木、128.5×149.7×6cm(ディテール)、《無題》2008、テラコッタ、43×50.5×5cm(ディテール)
PHOTOGRAPHS BY NOBUTADA OMOTE, COURTESY OF SCAI THE BATHHOUSE

 戦後の日本美術史における重要なムーブメント「もの派」の作家として国際的に知られる李禹煥(リ・ウファン)。彼の所属ギャラリー、スカイザバスハウスでは、これまで彼の主要な個展であまり紹介されてこなかった木、紙、土による作品を紹介する個展が開催中だ。1970年から80年代にかけて制作された旧作を含むこれらの展示作品は、現在にいたるまでの李の創作のビジョンをうかがわせる重要なアートワークでもあるという。

 たとえば、木の板の表面にノミで刻み跡をつけたタブローは、反復される身体的な行為の痕跡であり、自身の意識と外界の相互作用によって立ち現れる循環的な時間、そこに表出する無限性といった、李の同時期の絵画作品に通じる要素が見られる。また、紙の作品群は、箔のようにキャンバスに貼り合わせたり、薄墨に浸した筆で穴を描いたり、表面を引っ掻いたりと、多様な手法が試されているが、素材の物質性、素材に対する(描く、引っ掻くといった)行為の必然性、やり直しができない「一筆一画」の姿勢といったものを共通して読み取ることができる。

 現在、11月7日まで国立新美術館では、李の大規模な回顧展『李禹煥』が開催中。本展と合わせて鑑賞することで、半世紀以上におよぶ李の創作の関心、その目指すところを深く理解することができるはずだ。

『李禹煥 物質の肌合い』
会期:~10月15日(土)
会場:スカイザバスハウス
住所:東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
時間:12:00〜18:00
休館日:日・月曜、祝日
料金:無料
電話:03-3821-1144
公式サイトはこちら

『宮城壮太郎展――使えるもの、美しいもの』|世田谷美術館

画像: (左から)宮城壮太郎+高橋美礼 +d Tsun Tsun 2004年 [アッシュコンセプト]、オールラウンドボウルズ 2005年 [チェリーテラス]

(左から)宮城壮太郎+高橋美礼 +d Tsun Tsun 2004年 [アッシュコンセプト]、オールラウンドボウルズ 2005年 [チェリーテラス]

 ホチキスやテッシュのパッケージ、コピー用紙の包み紙など、「え、こんなものも!」と思わされるような暮らしに溶け込んだ日用品から、家庭用電気製品やホテルのサイン計画まで、つねにユーザー視点でデザインと向き合った宮城壮太郎。世田谷美術館で開かれている本展は、2011年に没した彼の初めてとなる回顧展だ。

 宮城は大学卒業後、浜野商品研究所に入社。建築やインテリアも含めさまざまなモノに対し「デザインすること」を学んだ。1988年に独立した後は、デザイナーおよびデザイン・コンサルタントとして活躍。当時、「デザインの対象」とみなされていなかった、産業用のロボットのモーターやコンピューターの冷却ファンの設計にも携わり、実際、そのふたつの仕事でグッドデザイン賞を獲得している。その「宮城壮太郎」という人物にほれ込み、亡くなるまで継続的にデザインを依頼する企業もあった。

 確固たる信念をもって「デザインに何ができるか」を問い続けたという宮城。本展では、彼がデザインした品々に加え、関係者のインタビュー映像などから、彼の幅広いデザインワークを検証。ひいては、現代生活におけるデザインの可能性を鑑賞者とともに探っていく。

『宮城壮太郎展――使えるもの、美しいもの』
会期:〜11月13日(日)
会場:世田谷美術館
住所:東京都世田谷区砧公園1-2
時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館時間の30分前まで
休館日:月曜(ただし祝日の場合は開館、翌日休館)
料金:一般 ¥1,200、65歳以上 ¥1,000、大学・高校生 ¥800、中・小学生 ¥500
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『MAMスクリーン016:ツァオ・フェイ(曹斐)』|森美術館

画像: 《新星》 2019年 ビデオ 97分12秒 COURTESY: VITAMIN CREATIVE SPACE,GUANGZHOU; SPRÜTH MAGERS, BERLIN/LONDON/LOS ANGELES

《新星》 2019年 ビデオ 97分12秒
COURTESY: VITAMIN CREATIVE SPACE,GUANGZHOU; SPRÜTH MAGERS, BERLIN/LONDON/LOS ANGELES

 MAMスクリーンは、世界各地の優れたシングル・チャンネルの映像作品を紹介する森美術館の定例プログラム。企画展と同時に開催され、現在は『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』展に合わせ、中国の現代美術家、ツァオ・フェイ(曹斐)の近作《新星》を上映中だ。

 ツァオ・フェイは、中国の改革開放以降に生まれた世代を代表するアーティストとして、近年、国際的に注目を集めている作家のひとり。写真やビデオ、インスタレーション、パフォーマンスなど、多岐にわたる手法で、現代中国と自身の個人的で文化的な関係性を投影した作品を発表してきた。なかでもポップカルチャー(大衆文化)とその変遷に強く関心を向け、ヒップホップ、コスプレ、仮想空間とアバター、AR(拡張現実)といった同時代的な題材が、作品に多様な方法で編み込まれている。

《新星》は、SF映像作品。旧ソビエト連邦の専門家の支援を受け、ある企業が「人間を、膨大な電波の傍受体、メッセージの収集媒体に変える」プロジェクトを遂行していたが、実験に失敗。その結果、「デジタルの塊」となり、過去と未来、夢と現実を永遠にさまようことになる被験者の青年が主人公だ。実際に、この作品は40〜60年代に旧ソ連の支援を受けて北京につくられた劇場「紅露影劇院」周辺で撮影(そのエリアは、同時期に農村部から工場のインフラが集積した地域に発展し、中国初のコンピュータもそこで発明された)。フィクションながらも、中国の社会の一面、リアルな産業史、文化史の要素を盛り込んだクリティカルな作品でもある。

『MAMスクリーン016:ツァオ・フェイ(曹斐)』
会期:~11月6日(日)
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
開館時間:10:00~22:00(火曜は17:00まで)
※入場は閉館時間の30分前まで
休館日:会期中無休
※《新星》の上映は、10:00〜、11:40〜、13:20〜、15:00〜、16:40〜、18:20〜、20:00〜(火曜は17:00まで)。企画展・プログラム等実施のため、10月1日および8日 10:00~18:20はクローズ。最新情報は公式サイトにて。
料金:
[平日]一般 ¥1,800(¥1,600)、大学・高校生 ¥1,200(¥1,100)、中学生〜4歳 ¥600(¥500)、65歳以上 ¥1,500(¥1,300)
[土・日曜、休日]一般 ¥2,000(¥1,800)、大学・高校生 ¥1,300(¥1,200)、中学生〜4歳 ¥700(¥600)、65歳以上 ¥1,700( ¥1,500)
※上記は同時開催の『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』のチケット料金。同展チケットで『MAMスクリーン016: ツァオ・フェイ(曹斐)』も観覧可。
※専用オンラインサイトでチケット購入の場合は()の金額を適用。
※専用オンラインサイトはこちら
電話:050(5541)8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

※新型コロナウイルス感染予防に関する来館時の注意、最新情報は各施設の公式サイトを確認ください

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