日本の現代アートの今を紹介する『六本木クロッシング』、オランダの現代作家ウェンデリン・ファン・オルデンボルフの国内初個展、みずみずしい感性と独自のアプローチで新しい陶芸のかたちを探求してきた西條茜の新作展。今月見るべき3つのエキシビションをピックアップ

BY MASANOBU MATSUMOTO

『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』|森美術館

『六本木クロッシング』は、森美術館が、日本の現代アートを総覧する展覧会として、2004年から3年に一度、開催してきたシリーズ展。現代において考察すべきトピックスを軸にしながら、同時代を生きる日本の作家たちの作品を紹介するスタイルで、「現代社会と現代アートの今」がわかること、また近年注目を集めている気鋭の作家から、すでに国際的に活躍している作家までの作品を一度に鑑賞できるのも大きな魅力だ。

画像: AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》2018年- インスタレーションサイズ可変 展示風景:「彫刻のつくりかた」公益財団法人 現代芸術振興財団 事務局(東京)2021年 COURTESY:公益財団法人 現代芸術振興財団(東京) PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

AKI INOMATA《彫刻のつくりかた》2018年- インスタレーションサイズ可変
展示風景:「彫刻のつくりかた」公益財団法人 現代芸術振興財団 事務局(東京)2021年
COURTESY:公益財団法人 現代芸術振興財団(東京)
PHOTOGRAPH BY KEIZO KIOKU

 第7回目となる『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』は、今、社会に要求される脱人間中心主義的な考え方や新しいエコロジー観、変容する個人や家族、集団のあり方、そして、現代の日本というものが、複雑に絡み合った歴史の上に多様な人と文化が共存しているという事実などを反映した3つのキーワード(「新たな視点で身近な事象や生活環境を考える」「さまざまな隣人と共に生きる」「日本の中の多文化性に光をあてる」)に沿って、22組の日本のアーティストを紹介する。ヤドカリやビーバーなど人間以外の生物と協働して作品をつくるAKI INOMATA、失踪していた伯母と再会し、その後の姿を撮影し続けている金川晋吾、いわゆる観光地ではない沖縄の日常風景を絵画で描く石垣克子、現代のアイヌの人々をカメラに収めてきた池田宏など。写真家の石内都は、故郷の群馬に移住したのち、家から半径1キロメートル圏内で撮影した写真をインスタレーション的に見せている。

画像: 金川晋吾《長い間》2011年 インクジェットプリント 28.3×35.7 cm

金川晋吾《長い間》2011年 インクジェットプリント 28.3×35.7 cm

 サブタイトルの「往来オーライ!」は、コロナ禍によって途絶えてしまった人々の往来を再び取り戻したいという思いを反映したものだが、肩肘の張らない言葉遊びであることも意義深い。本展の最後に紹介されている青木野枝の鉄とガラスの立体作品は、雲をイメージしたものだという。空を自由に往来する雲は、明日、かたちや色を変えて現れ、私たちの目を上に向かわせるものである。シリアスな問題に対してユーモアを交えた作品、今という時代を広い視野で捉え、どこか前向きな気持ちにさせてくれる作品もある。

『六本木クロッシング2022展:往来オーライ!』
会期:~ 2023年3月26日(日)
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
開館時間:10:00~22:00(火曜は17:00まで)
※ただし12月6日は16:00まで、12月17日は17:00まで、1月3日、3月21日は22:00まで
※最終入館は閉館時間の30分前まで
会期中無休
料金:[平日]一般 ¥1,800(¥1,600)、大学・高校生 ¥1,200(¥1,100)、中学生〜4歳 ¥600(¥500)、65歳以上 ¥1,500(¥1,300)
[土・日・休日]一般 ¥2,000円(¥1,800)、大学・高校生 ¥1,300(¥1,200)、中学生〜4歳 ¥700(¥600)、65歳以上 ¥1,700(¥1,500)
※( )は、専用オンラインサイトでチケットを購入時の料金。専用オンラインサイトはこちら
※2023年1月3日は[土・日・休日]料金
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』|東京都現代美術館

 ウェンデリン・ファン・オルデンボルフは、オランダの現代美術を代表する作家のひとり。20年以上にわたり、植民地主義やナショナリズム、ジェンダーなどの問題を主題にした映像作品やインスタレーションを発表してきた。特徴的なのは、こうした諸問題に対して「私はこう思う!」と作家自身の主義・主張を強く全面に打ち出すのではなく、撮影クルーや出演者など様々な視点をもつ他者と共同作業を行い、いわば「複数の声」を作品の中に包み入れようとする姿勢だ。

画像: ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《マウリッツ・スクリプト》2006年、映像スチル

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《マウリッツ・スクリプト》2006年、映像スチル

 彼女の最初の映像作品《マウリッツ・スクリプト》は、ブラジル北東部にあった旧オランダ領で、人道主義的な統治者と評価されているヨハン・マウリッツ・ファン・ナッサウの人物像にまつわるもの。ここでは、さまざまな立場、関係を取る人を参加者として招き、彼に対する議論を公開撮影した様子がベースになっているのだが、ときに撮影クルーや観客を巻き込みながら、つまり他者の声を受け入れながらマウリッツの知られてこなかった側面を描き出している。2021年に発表した《オブサダ》は、ポーランドの映画産業に関わる女性を主題にした作品。国立映画大学の女性の学生や卒業生と、女性のプロフェッショナルな撮影クルーが、女性の立場から映画制作について話し合い、また互いがその対話を、撮影し合うというプロセスでつくられた。

画像: ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《obsada/オブサダ》2021年 、撮影風景 PHOTOGRAPH BY JAKUB DANILEWICZ

ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ《obsada/オブサダ》2021年 、撮影風景
PHOTOGRAPH BY JAKUB DANILEWICZ

 彼女にとって国内初個展となる本展では、《オブサダ》や《マウリッツ・スクリプト》など彼女の代表作に加え、日本のふたりの作家、林芙美子と宮本百合子をテーマにした新作も披露する。女性の社会的地位や性愛、戦争といった問題に切り込んだふたりのテキストを、林や宮本の研究者、同じように諸問題に向かい合う現代の女性たちが朗読や対話を繰り広げる作品で、 時間を隔てた複数の声が、どのように結びつきを成し、共鳴するか、が実験的に試されている。

『ウェンデリン・ファン・オルデンボルフ 柔らかな舞台』
会期:~ 2023年2月19日(日)
会場:東京都現代美術館
住所:東京都江東区三好4-1-1
開館時間:10:00~18:00
※展示室入場は閉館の30 分前まで
休館日:月曜(2023年1月2日、1月9日は開館)、12月28日〜1月1日、1月10日
料金:一般 ¥1,300、大学・専門学校生・65 歳以上 ¥900、高校・中学生 ¥500、小学生以下無料
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイトはこちら

西條茜『Phantom Body』|アートコートギャラリー

 西條茜は、伝統的な陶芸の手法や構造を独自に再解釈しながら、狭義の陶芸の枠組みを越えた創作活動を展開する、今後の活躍に大きな期待が寄せられている作家だ。彼女の作品の根幹にある概念のひとつは「空洞性」。陶器は、釉薬などで表面を装飾される一方で、焼成の際の爆発を防ぐため、中を空洞にしておく必要がある。その空洞性に、テーマパークのハリボテに似た虚構性を見出し、自身の想像力を傾けてきた。

画像: 西條茜《湿地》2022年 ©️AKANE SAIJO, PHOTOGRAPH BY TAKERU KORODA, COURTESY OF ARTCOURT GALLERY

西條茜《湿地》2022年
©️AKANE SAIJO, PHOTOGRAPH BY TAKERU KORODA, COURTESY OF ARTCOURT GALLERY

 近年は、世界各地のアーティスト・イン・レジデンスに参加し、現地の陶器にまつわる歴史や物語に着想を得た創作も行なう。2019年に発表した《コキイユ》は、フランス滞在時、16世紀の陶工ベルナール・パリッシーがテュイレリー宮殿の地下につくったとされる「人工洞窟」(当時、貴族たちはそういった空間でパーティなどを行っていたと言われる)をリサーチして作られたもので、実に独創的だった。また、このパリッシーの洞窟では、流れ込む風によって音が内部に音が響いていたという逸話にヒントを得て、西條は自身が制作したオブジェに息を吹き込む身体パフォーマンスも展開するようになった。

画像: 西條茜《果樹園》2022年 ©️AKANE SAIJO, PHOTOGRAPH BY TAKERU KORODA, COURTESY OF ARTCOURT GALLERY

西條茜《果樹園》2022年
©️AKANE SAIJO, PHOTOGRAPH BY TAKERU KORODA, COURTESY OF ARTCOURT GALLERY

 本展では、“身体の在処”をテーマに、イタロ・カルヴィーノの幻想文学『まっぷたつの子爵』にインスパイアされたという新作をインスタレーションとして発表している。息を吹き込んだり、のぞいたり、指を入れてみたりできるような不思議な多孔のオブジェ群で、12月10日には、パフォーマンスも披露。コロナ禍において敏感になっている身体的な接触、また陶器には、本来、茶碗のように口をつけることで機能するものがあったことを念頭において見ると、また違った面白さが見出せるに違いない。

西條茜『Phantom Body』
会期:〜12月17日(土)
会場:アートコートギャラリー
住所:大阪府大阪市北区天満橋1-8-5 OAPアートコート 1F
開廊時間:11:00〜19:00(土曜は17:00まで)
休廊日:日・月曜、祝日
電話:06-6354-5444
公式サイトはこちら

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